汗と砂にまみれた身体をシャワーですっきり洗い落としたのはつい先刻。しかし夕食時に配られた数学と英語のクラス分けで、春哉は爽やかだった気分から一転、ガックリと肩を落とした。
結果は最初からわかっていたが、やはり現実を突き付けられると、頭の弱さが悲しくなってくる。談話室の前を通りかかると、柳と話し込んでいた竜崎に目敏く発見され、大人しく連行されるくらいには落ち込んでいた。
「納得いかなーい。」
「納得いかなくても、順当な結果だろ。」
春哉が手にする紙には、数学も英語も共にCと記載されていた。成績に関しては後ろから数えた方が早いメンバーが集うクラス。しかし授業の内容は実力に合わせたものになるので、必ずしも悪いことばかりではない。わからない事ばかりで授業そのものから脱落する可能性は僅かながら減る。
「ナオと同じが良かった……。」
「おまえなら、留年も夢じゃねぇな。」
「ちーがーうー。同じ学年が良いっていう意味じゃなくて、お揃いのクラスが良かったの!」
「いや、おまえじゃムリだろ。」
「片や学年トップだからね。」
今頃、直樹は食堂でクラス分けの紙を受け取っていることだろう。トップ入学だというなら見なくても結果はわかる。きっと彼は精鋭揃いのAクラスに違いないのだ。
「ナオに呆れられちゃう……。」
「今さらだろ。とっくに呆れられてんじゃねぇのか。」
「そんなぁ!!」
「ようやく懲りたか?」
「もうちょっと取れる予定だったんだけどなぁ。」
「懲りてなさそうだよ、光。」
春休みは竜崎や柳に協力してもらい、自分なりに頑張ったつもりだった。しかし今回の出題範囲は丸々一年分。当たり前だが、一週間ちょっと頑張ったところで挽回できる量ではない。
「おまえ、自分がいつも赤点だって事、憶えてるか。」
「今回は違うのに!!」
「英語だけギリギリ一点な。」
「うぅー……。」
残念ながら数学は追試だ。しかも補講を受けることになり、これから五日間、部活はお預けだった。
踏んだり蹴ったりの状況にソファへ沈み込んでいると、談話室の前にある廊下で話し声が響き始め、賑やかになっていく。一年生が食堂から部屋へ引き上げ始めたようだった。
「ナオに会わせる顔がない……。」
「春哉のクラスなんて、芝山はどうでもいいんじゃない?」
「やなぎんが虐める……。」
「初っ端から醜態晒しまくってるんだから、今さらだろ。」
「ぴかりん、ヒドイ。ナオの前ではカッコよくいたいのッ!!」
竜崎と柳に叫びながら、何故そんな風に思うのか、自分でもよくわからなかった。
しかし直樹が戸惑ったり困った顔をするたびに手をギュッと握りたくなる。ジッと見定めるような直樹の静かな眼差しが好きだ。
今朝もベッドに忍び込んで隣りで眠ったら、想像より直樹は体温が高くて、いい匂いがした。憧憬の視線が嬉しい。つい手を取ってキスをした時の驚きようといったらない。構いたくて堪らなくなる。
何でも一番に自分を頼ってほしいのに、こんな出来損ないの頭では頼りにしてもらえない。悲しい気分になって、竜崎と柳に隠しもせずイジける。
「ナオに嫌われたらイヤ……。」
「同室の先輩がどうしようもないバカでも、好きか嫌いかは別次元の話だろ。」
「ぴかりん。慰めるなら、もうちょっとソフトな感じでお願いしまーす。」
「珍しいね。春哉が誰かに嫌われたくないって言うの。」
「そうかな?」
「自覚ないんだ。誰に何言われたって、いつもは平然としてるくせに。」
柳が真顔で指摘してくるので、少し考える。確かに普段は他人にどう思われているかなんていう些細な事は気にしない。どうして直樹に嫌われたくないのだろうか。
「一大事なんだよ!」
「は?」
「何が?」
「他の人は大した事ないけど、ナオに嫌われるのはダメ!!」
「だから、何で?」
再び柳に問われて、自分の胸にも聞いてみるが、それ以上の事はよくわからなかった。直樹に嫌われる事が、自分にとって衝撃的なことであるという事実しか確信できない。
悶々としながら一年生たちが廊下を通り過ぎていく様子を見つめる。そして直樹の姿が目に飛び込んで来るやいなや、春哉はソファから高速で身体を起こし、直樹に走り寄る。
「なーおー!!」
とにかく今自分にわかる事は、首を長くして直樹と暮らすことを楽しみにしていたということ。そして出会った瞬間から、つい嬉しくて、はしゃぎ過ぎてしまうということだけだった。
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朝霧とおる