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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園10

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新緑の楽園10

興味津々といった具合に春哉からの視線を浴び続け、直樹は数学の問題集を一ページ解き終えたところで顔を上げた。集中しようにも、これだけ視線を感じたら気が散ってしまう。

椅子の上に胡坐をかいて座り、開いたはずの問題集には目もくれず、春哉は直樹のことを眺めていたらしい。目が合うと嬉しそうに椅子を滑らせて寄ってきた。

「それ、今日貰った問題集?」

「はい。」

「まだ授業受けてないのに解けるの?」

「春休み、少し先をやってたので……。」

「すごぉーい!!」

春哉はコロコロと表情が変わる。そこに表裏はなく、思うままに気持ちを放っているように見える。彼を縛るものは何もなくて、のびのび羽を伸ばすさまは羨ましくも眩しい。しかし不思議と妬みを抱かせない柔らかさがある。すぐ卑屈になろうとする直樹ですら、春哉の口からこぼれ落ちる言葉は真っすぐ嫌味なく胸に届く。

「勉強しなくて大丈夫ですか?」

「全然大丈夫じゃないんだけど、大丈夫だと思うことにする。」

大丈夫かどうかは、他人の物差しで測るものではないと思う。ましてや成績で決まるものでもない。だから憂いもなく笑える春哉は、確かに何の問題もないのだ。

しかし自分は違う。親や兄、周囲の目を気にして教科書を開く。ダメな奴だと烙印を押されることが怖くて、勉強せずにはいられない。何かを成し得ようとして奮闘しているわけではない。自分自身の未来を見据えた上での選択ではなかった。

自分の為に自分の望むものを選び取ってくることができなかった後悔。周りの評価を気にして、自分で自分の首を絞め続ける息苦しさ。ようやくその場所から逃げ出し、出逢った人が春哉で良かった。

春哉の前にいると、無条件で存在そのものを許された気になってホッとする。春哉自身が取り繕うことを知らないから、彼の前では仮面を被り鎧で身体を覆いつくす必要がない。言動が読めずに奔放だけど、そこには何の企みもないのだと確信できる温かさがある。

「そうだ、ナオ、良い事教えてあげる!!」

急に立ち上がり、教科書やノートを積み上げた山から器用に数冊引き抜き、差し出してくる。

「パラパラ漫画作るなら、日本史と現代文の教科書がオススメ。分厚いから!!」

ページを繰って絵を動かすと、可愛らしいクマが踊ったり跳ねたりしていた。途中からはストーリー仕立てになっていて、花に恋したクマの愛らしさに思わず直樹は頬を緩める。カラフルなペンで色付けまでされていて、恐らく授業中に鋭意制作されたものなのだろう。

これでは授業をまともに聞いているはずもない。何度もめくって年季の入った風合いの下部とは違い、本文は真っさらだ。時折、偉人たちの顔がとんでもない形相に様変わりしてはいるけれども。

最初は堪えながら小さく笑っていたが、ついに肩が揺れてしまう。

「あ、その絵、結構力作でしょ?」

たまたま開いたページにあったのは、イチゴ柄のパンツを履いた信長だ。春哉も一緒になって笑い始める。そして絵と同じポーズをとって見せてくれた。

「本能寺の変はイチゴパンツ、ってぴかりんに言われたから。」

年号を憶えるための語呂合わせは、格好の餌食となって教科書を彩っていた。

本当は絵そのものがおかしくて笑ったわけではなかったけれど、春哉との時間が信じられないくらい平和で、込み上げてくる笑いが止まらない。

この空間に自分を縛りつけるものは何もない。陸の孤島だと家族には渋られたけど、もうそんな事は欠片も気にならないくらい、テスト勉強を棚上げにして二人で笑った。









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