こそこそと永井の行動を眺めるだなんて、根拠のない浮気を疑う性根の悪い恋人にでもなった気分だ。しかし彼を守るためだと正義感に燃える。
鎌田の言葉が正しかったと宮小路が確信するまで、さほど時間はかからなかった。
「やっぱり、あの青年か……。」
「何で俺まで付き合わせるんだ。勝手にやってくれ。これじゃあ、俺まで怪しい奴じゃないか。」
「正当な理由があるから問題ない。」
「ストーカーは大抵そう言う。」
永井が邪な目に晒されているのを目の当たりにすると、どす黒いものが湧き上がってくる。許されてなるものかと、今すぐに抹殺したいくらいの衝動は燻っている。
しかしここで飛び出していって、かえって事を荒立てるつもりはない。今、宮小路に与えられた使命は、永井が無事に家へ辿り着くことを見届けることだ。
永井と出前の青年が角を曲がったところで車を降りる。
「ここにいてくれ。」
宮小路がこそこそと車を降りようとすると、鎌田はエンジンを切ってこちらの後に続こうとする。
「俺も行く。見つかった時、一人より二人の方が言い訳も考えやすい。おまえ、自分が相当目立つ容姿だってこと、忘れてないか?」
「……余計なことするなよ。」
「それはこっちの台詞だ。」
鎌田に溜息をつかれながら、二人で車を降りる。前を行く永井と出前の青年に遅れを取らないように急ぐと、永井はすでにアパートへ辿り着く直前だった。
「尊い背中だ。」
決して小振りではないのだが、清楚で慎ましい性格が背中から滲み出ている。
「宮小路。真剣に尾行する気があるのか。」
「あの可憐な後ろ姿の尊さがわからないのか?」
「わかりたくもない。ッと、あいつ引き返してくるぞ。」
永井が無事帰り着けるか見届けていると、出前の青年が元来た道を戻り始める。危害を加える意思がないことには安堵した宮小路だったが、図体の大きい鎌田と二人、隠れられる場所はないと慌てて車へ舞い戻る。
「いい大人が三人、何やってんだか……。」
車内に身を隠し終えたところで、鎌田が呆れたように溜息をつく。
「鎌田。あんなストーカーと俺を一緒にするなよ。」
「恋人でも、これはアウトだと思うぞ。」
「何かあってからじゃ遅い。」
「あっちも大人だぞ? 若干頼りなさそうなのは認めるが、そんな簡単にやられたりしないだろ。」
「物騒なことを言わないでくれ。それと頼りないんじゃない。おしとやかなんだ。」
「はいはい。」
エンジンを再びかけて、宮小路の車は音もなく大通りへと進む。夕暮れの混雑に紛れてしまえば、痕跡など残りはしない。バックミラーを見ても、まだ視界にあの青年はいなかった。
「鎌田、明日の午後は急ぎの案件、なかったよな?」
「ああ。」
鎌田が前を向いたまま、スッと目を細める。彼が宮小路の提案に警戒している証だ。
「マリィが制作現場を見たいと言ってるものだからね。顧客の要望は叶えないと。」
「おまえが工場に行きたいだけだろ。」
「送る口実としては、なかなか上等じゃないか。それにあの青年に鉢合わせる可能性もあるから、釘を刺せるかもしれないだろ? 別に意味もなく会うわけじゃない。進捗状況も確かめられるし一石二鳥だ。」
「まったく、これだからボンボンは……。」
不承不承スケジュール調整に頷いた鎌田を横目に、宮小路は工場視察の打診をするべく、家に帰り着いているであろう永井に電話をかけた。
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朝霧とおる