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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』47

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』47

紡績工場の作業場へ立ち入った瞬間から、スタッフの仕事ぶりに終始興奮気味で、すっかり気に入ってくれたマリィを、宮小路と鎌田、永井の三人で見送る。永井は急遽組まれたマリィの視察を無事終えて、安堵の息をついたのも束の間、宮小路に言いくるめられ彼の車に収まっていた。

結局永井がどう断ったところで、彼はあの手この手で送迎をする気なのだ。

すでに永井は諦めの境地にいる。同時に宮小路の熱心さがおかしくて、横に座る上機嫌な彼を眺めているのも楽しい。こうやって構われるのは悪くないと思う自分がいる。

そして本日車が向かう方角は永井の自宅ではない。流れる景色を見る限り、宮小路の家へと向かっている。自宅の在処を聞かれなかった時点である程度予測はしていた。これは困ったと心の中で呟きながら落ち着かない気分でいると、宮小路の手が永井の手に重なる。そして運転をしてくれている鎌田という男の存在などまるで気にする様子はなく、永井のうなじへキスをした。

「ッ……」

「綺麗なうなじなのでつい。」

悪気のなさそうな顔で微笑まれてしまうと言い返せない。

「永井さん。怒ってますか?」

「え……?」

「車に乗ってから、ほとんど窓の外ばかり見ているので。」

宮小路の顔が想像以上に近く、驚いて呼吸を忘れていると唇まで奪われてしまう。バックミラー越しに鎌田と目が合って、永井は慌てて宮小路の肩を押し退けた。

「永井さん。彼のことはお気になさらず。」

「気にします……。」

「恥ずかしがり屋なところも可愛いですよ。」

「ッ……。」

後部座席で戯れている二人を全く気に留める様子もなく、鎌田の視線は前方の信号へと向けられている。こんな奔放な御曹司を前に、よくもポーカーフェイスを保てるものだと鋼の精神力に感心してしまう。鎌田という男にある意味尊敬の眼差しを送っていると、少しむくれたように宮小路の顔が割って入り、永井の視界を塞いだ。

「永井さん。少し疲れた顔をしてらっしゃいますね。」

まさに目の前にいるこの男の所業が永井を振り回しているわけだが、別に嫌なわけではない。身体も心も慣れないことに驚いているだけだ。発熱してぐっすり眠った後は、むしろ心は晴れやかになっている。ただ身体の節々が訴える痛みは、永井を物理的に疲弊させてはいるけれども。

「疲れているというより、色々……驚いているだけです。」

「私があなたを愛する事を許してくださると考えていいわけですね?」

相変わらず不思議な事を聞いてくる。宮小路のまどろっこしい言い方にも慣れてきた。永井が頷かないなら頷かないで、納得のいくまで食い下がってくるだろうに、この一連の確認作業は何のためにあるのか。彼にとってはこれも前戯のひとつなのかもしれない。

「許すもなにも……同意の上です。私には……もったいないくらいですから。」

永井の言葉を満足そうに聞いて、宮小路が頷く。及第点らしい。永井の手を取り、甲へゆっくり口付けると、そのまま宝物を包み込むように大きな掌で永井の手を握った。

「もうお気付きかと思いますが、私の家へ向かっています。」

車は見慣れたマンションの玄関前へ滑り込む。急発進や急停止のない見事な車捌きを羨望の眼差しで見つめていると、宮小路の手が永井の肩を掴んで外へ出るよう促した。

今まで余裕がなくて碌に礼も言えずにいたが、二人に興味を示さない鎌田へ思い切って声を掛けてみる。

「鎌田さん、ありがとうございました。」

一瞬目を見開き、面白いものを見るように口角を上げたのは鎌田。一方の宮小路は、何故か引き攣った顔をしていた。

「永井さん、行きましょう。」

普段の彼とは違う、少し寛容さに欠けた宮小路の反応が新鮮で、弱点を見つけたようで嬉しくなる。

宮小路の城へ吸い込まれていく自分は、幸運な敗者だ。逃げ出すなんてもったいなくて、優しい手に導かれて甘い糸に絡めとられていく。

惚けていたものだから、鞄の中でしつこく震える携帯電話に気付いたのは、宮小路の方が先だった。








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