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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園9

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新緑の楽園9

籠っていたトイレから出ると、直樹の姿がなくなっている。

「ぴかりん。ナオは?」

「おまえに嫌気が差して逃げたんじゃねぇか?」

「えぇー!!」

一緒に過ごせることを楽しみにしていたのに、初日から嫌われてしまったら、さすがに落ち込む。同室だった竜崎は、何をしても、どんな事を言っても態度が変わらなかったから、油断していた。少し内気に見える直樹には、遠慮のない春哉の言動が受け入れ難かったのかもしれない。

「どうしよぉー。ぴかりん、どうしよぉー!!」

「うるせぇ、知らねぇよ。」

「あ、ナオ!!」

柳に連れられ戻ってきた直樹に、さっきまでの反省はどこ吹く風、喜びのままに飛びつく。しかしほとんど変わらない体格差の春哉に勢いよく飛びつかれた直樹は、春哉の身体を受け止めきれずに、二人仲良く廊下へ横倒しになる。

「うッ……。」

「ぎゃッ!!」

品なく声を上げた春哉に手を貸す者はなく、竜崎と柳は呻いて倒れた直樹の手を取り引っ張り上げていた。

「芝山、倉庫にロープあるから、一晩こいつのことベッドに縛り付けとくか?」

「良案だね。」

「なッ、ぴかりん、酷い!!」

竜崎の背後で柳も同調したが、直樹はそんな二人を戸惑った様子で眺めている。直樹が頷いたりしなければ大丈夫だと思った矢先、寝転がったまま竜崎に両足を掴まれ、部屋の中へと引きずられていく。

「うわッ、ぴかりん、何でッ!?」

髪の毛が上手い具合にクッション材となり、床との摩擦はなく幸い頭部に痛みを感じない。しかしこの癖毛にたっぷりの埃を巻き取っているかと思うと、またシャワーを浴びる手間が億劫で、竜崎へ抗議の声を上げた。

「暴力反対! 暴力反対!!」

「愛の鞭だ。」

「そういうの、いらないってば!!」

足をばたつかせて抵抗すると、竜崎が掴んでいた両足首から手を離して呆れたような視線を寄越してきた。

「もう、またシャワー浴びなきゃ。」

「春哉。とにかく、寝るまで大人しくテスト勉強してろ。」

「え、何で?」

「おまえ、まさか明日テストだって知らねぇわけじゃねぇよなぁ?」

泉ノ森では期末試験だけでなく、進級した春にも学力テストがある。そして数学と英語の授業は学力別にクラス編成がされていく。

「それは知ってる。大丈夫だよ。」

「毎回赤点で追試だから言ってんだろ!!」

そういえば、自分に後輩ができたら勉強を頑張ろうと思っていたのだ。確か竜崎にも宣言していた。しかしいざ直樹がやってきたら、嬉しさのあまり興奮して、すっかりそんな決意は失念していた。

「忘れてた。」

「良いよなぁ。都合の悪い事は全部忘れられて。ある意味、尊敬する。」

「見捨てないでぇ、ぴかりん。」

「もう今年は面倒見れねぇぞ。」

「ナオ、勉強得意?」

廊下からこちらの様子を窺っていた直樹へ、縋るように声をかける。話を振られたのが不意打ちだったのか、直樹は一瞬驚いたように目を瞬いて、困ったように首を傾げてくる。

「芝山、トップ入学だよ。」

黙り込んでいる直樹の代わりに、柳がその背後から一声掛けてくる。

「やったぁー!!」

「春哉。そこは喜ぶとこじゃねぇぞ。」

「いくら勉強できるって言っても、自分の方が学年上だってわかってる?」

竜崎と柳から口々に釘を刺されるものの、すでに希望の光を見た気分で直樹のところへにじり寄る。

「俺、そういう事にはこだわらない男だから。」

「芝山、適当にあしらえよ。」

「ちょッ、ぴかりん、酷い!!」

さすがに呆れられたかと恐る恐る直樹の顔を見る。しかし彼は笑みを溢して春哉の髪に手を伸ばしてきた。

「埃……いっぱい付いてます。」

直樹の指に摘み上げられた埃の塊は、ふわふわと肥えて大きい。自分の髪の毛にたくさん纏わりついている様子を想像するだけで、その残念具合は半端ない。けれど春哉にとっては自分の見た目より、直樹が気負わず笑ってくれたことの方が大事だった。









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