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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園8

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新緑の楽園8

つくづく浅い付き合いしかしてこなかったのだと実感して過去の自分を悔いる。春哉の言動の全てが新鮮で生々しい。あるのは嫌悪感ではなく戸惑いだ。春哉が特別変わっているのか、男子高校生の距離とはこういうものなのか、直樹にはわからない。狼狽えて、赤面している自分とは違い、春哉はこれが普通と言わんばかりの態度。緊張している自分がおかしいのかと思えてくる。

「一緒に暮らすって、こういう事か……。」

トイレに籠って何をしているのかは容易に想像がついてしまう。触れてきた春哉の滑らかな手を思い出し、春哉に釣られるように身体が熱くなる。落ち着かない生温い空気を打ち破る大きな音がしなかったら、果たしてどうなっていたことやら。

「ッ!?」

「おーい、二〇九。点呼ぉー。」

「あ、はいッ!!」

ドアを叩く音と聞き覚えのある声に直樹は顔を上げ、ベッドの梯子を転げ落ちるように慌てて降りる。狭い部屋を駆けたところで廊下へ出るまでの時間に大差ないが、直樹は勢いよくドアを開けた。

「よぉ。」

「芝山はオッケー、っと。」

柳が部屋番号と名前の書かれたリストに何やら印を付ける。

背の高い二人がドアの前に立ち塞がっていると、なかなか迫力があった。直樹は飛び出した勢いを急速に萎ませ、一歩後退りをして直立する。

「で、春哉は?」

「またお散歩かな?」

また、というからには点呼の時刻に部屋へ戻っていなかった前科が少なからずあるという事だろう。上級生の数人も春哉のことを変人呼ばわりしていたし、憎めないものの難儀な先輩だという印象を直樹も抱いている。今日に限って言えば、散歩に出ていてくれた方が数倍マシだった。

「……トイレ、入ってます。」

「ホントかぁ?」

遠慮なく部屋へ入ってきた竜崎は、拳でトイレとシャワーのあるドアを乱暴に叩き始める。

「春哉ぁ、いんのか?」

「もうッ!」

「何だよ?」

「今、集中してるから声掛けないでッ!!」

「はぁ?」

廊下で立っていた柳は表情を変えることなくリストに丸を付け、隣りの部屋へと去っていく。一方の竜崎は春哉との応酬に足を止めていた。

「腹でも壊したか?」

「ちーがーうー。もう、萎んじゃったじゃん!!」

「そっちかよ。点呼の時間に盛るな、アホ。」

「だって、ナオが気持ち良くするから!」

「はぁ?」

急に白羽の矢を立てられ、振り返った竜崎に直樹は必死な形相で首を横へ振る。

「芝山は違う、って言ってんぞ。」

竜崎が再びトイレのドアに向き合ったところで、直樹はこれ以上この奇妙な会話に巻き込まれまいと後退りをする。早いところ柳に竜崎を持ち帰ってもらおうと、廊下へ出て姿を探すと、彼は着々と役目を果たし、すでに一番奥の部屋まで辿り着いていた。直樹は駆け足で柳の後を追う。

「柳先輩ッ!」

直樹の呼び声に、柳は手に持ったリストからすぐに顔を上げた。

「あの二人、まだやってる?」

「はい……。」

「光も春哉も、一年中あんな感じなんだ。運がなかったと思って諦めて。」

涼やかな柳の笑みに、直樹は少しばかり緊張する。たった一つの年齢差が信じられないくらい、彼は落ち着いていた。本当かどうかは知らないが、春哉の言っていた事も思い出し、ますます信じられない面持ちで見つめてしまう。

「光は点呼終わったら、連れ帰るから。俺と一緒に回る?」

「え?」

「クラスメイトもいると思うし、顔憶えて貰えるかもよ?」

「……はい。」

春哉はもう籠城をやめただろうか。何事もなかったかのように接してくる春哉を容易に想像できたが、このまま顔を突き合わせても自分は挙動不審になってしまいそうだ。動揺を宥める時間が少しでも欲しい。柳の申し出に直樹は頷き、残りの点呼に付き合うことにした。









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