火照り過ぎた春哉の熱が少し怖かったけれど、様子を見に行ってくれた柳の言葉に、直樹はひとまずは肩の力を抜く。
「あいつ、風邪か?」
「風邪みたい。薬飲まない、ってゴネてたけど。」
「またかよ。懲りねぇな、ホント。」
竜崎と柳にとっては慣れた光景でも、突然そばで倒れられると心臓に悪い。
「身体弱いとかじゃないから、心配しないで。」
こちらの心配を見透かしたような柳の言葉に、直樹は顔を上げる。
「体育祭とか文化祭の後が危ねぇんだよ。興奮し過ぎて眠れなくなって、緊張が解けた途端、パッタリ。」
「入学シーズンも加わったね。」
「だな。」
彼らの言う事が本当なら、体調不良の原因は随分と可愛らしい。遠足を楽しみにする小さな子どもみたいなものだ。それだけ直樹が来ることを楽しみにしてくれていたという事でもあるから、微笑ましい。直樹がつい笑みを溢すと、竜崎と柳も笑う。
「ホント、ガキなんだけど、頼むな。」
「はい。」
春哉がこの場にいたら威勢よく抗議の声を上げそうだ。早く体調が戻ってほしいというのもあるけれど、春哉の賑やかな声を聞きたい気持ちが一番強い。春哉一人いないだけで、この部屋は空っぽになってしまったかと思うほど静まり返ってしまうから。
点呼の隙を縫って気に掛けてくれた竜崎と柳に礼を言って見送る。
明日、春哉が復活できるかどうかはわからないけれど、朝食前に保健室へ顔を出してもいいかもしれない。少し照れたように笑う顔が思い浮かんで、それだけで直樹は胸を温かくした。
* * *
目覚ましが鳴るより前に起きてしまったのは、やはり春哉の様子が頭のどこかで気に掛かっていたからだろう。物音がしないことより自分以外の気配を感じないことに寂しさを感じながら、手早く身支度を済ませる。急いた気持ちのまま保健室の前までやってきて、一呼吸置いて静かにドアをスライドさせた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
席に着いたままドアの方を向いたのは、川口ではなく別の先生だった。交代制で当直していて、名札には萩野と書かれている。
「小塚かな?」
「はい。」
カーテンで仕切られた一番手前のベッドを指されて、直樹は静かに頷く。直樹は布地の合間からカーテンの中へ身体を滑り込ませ、春哉の顔を覗き込む。
少し熱っぽい顔が直樹の気配に気付くことなく無防備に晒されている。汗をかいたらしく髪はしっとりとしていて、春哉の白い額に貼り付いていた。気になって手を伸ばし、そっと春哉の髪を掻き上げる。触れた瞬間ドキリとしたが、春哉は安心しきった寝顔で穏やかな寝息を立てているだけだった。
「春哉さん」
声になるかならないか、ほんの微かな音を喉から絞り出して、春哉を呼んでみる。
気付いてほしいと思う一方で、春哉の寝顔をいつまでも堪能していたい。可愛いだなんて口が裂けても言えないけれど、この手で包み込みたい衝動がじわじわと湧き上がってくる。
シーツの上に投げ出された春哉の手に、直樹はそっと手を重ねてみる。
「ん……。」
春哉の上げた声に驚いて手を引っ込めようとした矢先、握られて人差し指だけ捕まった。
「春哉さん……。」
焦りが直樹の顔を熱くしていく。そうこうしている間に春哉の瞼が蠢き始め、直樹が呆然と見つめる中、彼はゆっくり瞼を開けた。
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朝霧とおる