なんだか身体が火照って、寝苦しい。そして寝返りを打とうと試みるものの、身体に圧し掛かる何かに阻まれて手足は思うように動かなかった。
「ん……。」
薄っすらと目を開けると、直樹は目の前にあるはずのない顔を見つけて驚いて飛び起きた。
「つぅッ!!」
飛び起きた衝撃で肘を強打し、眉を顰める。大きな音と共に二人を乗せたベッドは揺れ、春哉は目を閉じたまま振動に怪訝そうな声を上げた。
「んー?」
「春哉さん」
「ん?」
「あの……。」
掛布団を手繰り寄せて再び安眠へ向かおうとする春哉に、直樹はおっかなびっくり彼の肩を掴んで揺り動かす。
「春哉さん」
「うー……。」
目覚まし時計の針は起床予定時刻の十分前を指し示していた。手洗いにでも起きて、間違えて上ってきてしまったのだろうかと考えてみるが、春哉の言動を振り返ってみると、確信犯であることを否定できない。
「春哉さん、何で……。」
「んー……あ、ナオ。おはよぉー。」
心臓が駆けて破裂しそうなほど大きな音を立てている。皮膚を伝って耳の奥へ届く鼓動が生々しくて、とても冷静にはなれなかった。間延びした春哉の声は直樹の耳を素通りして、上手く言葉を返せないまま顔が熱を帯びていく。
「ナオのこと、起こそうと思ったんだけど、寝ちゃった。んー……。」
狼狽している直樹の様子に気付くこともなく、春哉はのんびり身体を起こして伸びをしている。直樹はそのマイペースさを呆然と見つめ、何事もなかったかのようにベッドの梯子を降りていく春哉を見送ることしかできない。彼の姿が見えなくなったところでようやく深呼吸を自分に課し、どうにか冷静さを呼び戻す。
春哉にとっては大した事ではないのかもしれないが、直樹には彼のぶつけてくる距離感が逐一斬新で受け止め方がわからない。慣れるには時間が掛かりそうだと悩ましく思う一方で、計算のない無邪気さに、たった一日で絆されているのを感じた。
「ナオ、ネクタイ自分でできる?」
「で、できます……。」
「凄いねぇー。俺、最初の一か月くらい全然できなくて、毎朝ぴかりんにやってもらってた。」
竜崎に文句を言われながらネクタイを締めてもらうさまが容易に想像できる。頭の中で繰り広げられる微笑ましい朝の一幕に、直樹は頬の筋肉を緩めた。
何をされても憎めない。それは直樹一人が春哉に抱いている印象ではなく、きっと春哉の周囲にいる多くの人が思うところだろう。
「テスト、頑張らなきゃなぁー。」
結局、昨夜はほとんど勉強していない。点数が悪かったからといって春哉が落ち込むとは到底思えないけれど、せめて赤点にはならないといいなと心の中でささやかなエールを贈る。
「ナオ、テスト終わったら、校庭集合ね!」
「はい。」
早く飛ぶ姿を見せたいと逸る気持ちが、春哉の全身を漲らせているのが伝わってくる。こちらを振り返って念を押してきた春哉に、直樹は笑いながら頷く。
「楽しみにしてます。」
直樹の言葉に満面の笑みを返してきた春哉は、鼻唄を歌いながら着替えを始めた。
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朝霧とおる