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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園13

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新緑の楽園13

テストの結果は散々だったらしい。しかし達観したかのような微笑みで、全然解けなかったと言われてしまうと、逐一結果に囚われている自分が小さく思えてしまうから不思議だ。

教室まで迎えにきた春哉は直樹の手を取り、二人で校庭へと直行する。佐竹やクラスメイトに見送られながら、春哉に必要とされる優越感を直樹はじわじわと感じるのだった。

全身で早く早くと急かされたから、すぐに棒高跳を披露してくれるのかと思いきや、そこは真面目な陸上部員らしく、入念なストレッチに付き合わされる。昨日こさえてしまった痛みを引きずり、ストレッチだけで早くも身体は悲鳴を上げていた。

「ナオは何やりたいの?」

「当分は軽めのランニングで。」

「慣れてきたら?」

「まだ、決めてなくて……。」

「ふぅーん。そっかぁ。」

半ば強引に入部させられたようなものだし、特段やりたかった事があるわけでもない。こういう主体性のないところを変えたくて泉ノ森へ来たけれど、環境を変えても、すぐに自分を変えられるわけではないから難しい。

自分のテリトリーへ引きずり込んだくせに、一緒に棒高跳をやろうとは言わないのだな、と春哉の気まぐれな匙加減に内心苦笑する。

「じゃあ、ここで見ててね!」

春哉の言う特等席はバーの斜め横だった。バーを見上げて、その高さを思うだけで足が竦んでしまう。しかし春哉なら臆することなく飛翔していくのだろうなと、どこか確信を持っている自分もいる。

飛ぶのは一瞬でも、身一つで跳ね上がる心許なさをどう克服するのだろう。自分なら走り出す前から高さに怯え、一歩を踏み出すことすらできないかもしれない。想像するだけで恐怖が湧き上がってくる。

しかし春哉はポールを握った後は、軽快な足取りで助走ポイントへと向かう。軽く足踏みをし、構えて深呼吸をしたら、直樹が目を瞬く間に走り出してしまった。そこには一切の躊躇を感じない。

恐れるものは何もないと言わんばかりに速度を上げながらバーの近くまで走り込んで、あっという間にポールをしならせ、空へと飛び出していく。

「ッ……。」

春哉の身体は、バーの存在を忘れさせるほど自然な弧を描いて軽やかに舞う。頂点に達した瞬間は時が止まったように思えたが、気が付くと春哉はマットの上に着地していた。

体育座りをしたまま身動きも出来ずに呆然と見つめていると、春哉はマットから飛び起きて駆け寄って来る。感動をぶち破る勢いで直樹の背後へ突撃してきたので、目を瞬くことしかできなかった。

「ナオ、どうだった?」

「……。」

「ナオ?」

「凄くて……ビックリしました。」

「でしょー!!」

背中に圧し掛かってきて騒ぐ春哉は走り出す前と変わらないテンションだったが、今では神々しく見えなくもない。しかし尊敬の胸中でいたのも束の間、春哉はどこまでも春哉だった。

「ナオ、ご褒美くれてもいいよ!」

「ご褒美、ですか?」

「上手く出来たから、ほっぺにチューがいいなぁー。」

「え……?」

冗談かと思いきや、はい、どうぞと言いながら頬を出してきたので、直樹は驚いて目を見張る。自分からのキスが果たしてご褒美になるのかも疑問だし、そもそも公衆の面前でやらかして冗談で済まされるのかもわからない。突っ込みどころは満載だ。

直樹が身体を硬直させて答えに窮していると、背後から直樹の右手を取って、甲に唇を押し当ててくる。

「ッ!?」

「ナオってば、シャイだなぁー。」

内向的かどうかの問題ではない気がしたが、あえて反論はせず、唇の感触が残る右手の甲を見つめる。見た目には何の形跡も残してはいなかったが、ざわざわと落ち着かない気分が、次第にはっきりとした羞恥心へと変わって、直樹を赤面させる。

「ナオ、可愛いー!!」

好き勝手に騒ぐ春哉の口を咄嗟に自分の手で塞いだのは、もうこれ以上は湧き上がってくる恥ずかしさで身が持たないと思ったからだ。

「春哉さん、ちょっと黙って!」

「んッー、うー!!」

二人でバタバタと校庭の真ん中で暴れる。春哉の同級生が呆れて仲裁に来るまで、砂まみれになりながら、春哉と直樹は低レベルな取っ組み合いの攻防を続けた。









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