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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

新緑の楽園2

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新緑の楽園2

二階の窓から声をかけてきた上級生は、一年という短くない歳月を共にする同居人だった。ふわふわの柔らかい癖毛は、染めているはずはないのに色素が薄い。陶器のように白い肌は人形のようだ。しかし細身である一方で、男らしい肩幅と首の太さが儚げな雰囲気を打ち消していた。それにこちらを射抜くような眼光の強さは、意思の強さを物語っているように思える。

「ナオ。こっちがトイレとお風呂。」

「はい。」

こちらが芝山直樹だと名乗る前に、彼は直樹のことをナオと呼んだ。この春から二年生になる彼らは、先に同居人となる新入生の名を言い渡されているらしい。親しみを込めて呼ばれる名を嫌だと思うはずもなく、ここへ来るまで気を張っていた分の緊張が自然と溶けていく。

「机はナオが窓側。ベッドは上を使ってー。」

のびのびと話す彼に神経質さは見当たらない。一見整っているように見える部屋には綻びが散見され、現に入り口側の机に山積みにされたノートや教科書は今にも崩れ落ちそうだ。繊細そうな見た目とは違って、案外ズボラなんだろう。神経質な同居人と暮らすと息が詰まるのはすでに経験済みだから、程よい適当さ加減に直樹は安堵する。

合法的かつ不自然なく家を飛び出すために、全寮制という逃げ道が正しいかどうかはわからない。けれど気負いもなく朗らかに笑う彼を見て、今自分に考え得る最良の選択をした気がした。

「小塚先輩、よろしくお願い……」

「そんな堅苦しい呼び方、ダメ!」

急に膨れ面をして直樹の言葉を遮った彼を呆然と見返す。

「え……?」

「春哉って呼んで!」

「よ、呼び捨てですか。」

今日会ったばかりの先輩を呼び捨てにできるほど肝は据わっていない。困惑の胸中をそのまま明かすと、彼は暫し唸ってみせ、これ以外相応しい解はないといった具合に、はっきりと告げてくる。

「じゃあ、春哉さんかな。呼んでみて?」

「……春哉さん。」

「うん。良い感じ。」

満足そうに微笑む春哉の顔に、つい惹き込まれて見つめる。すると臆することを知らないらしい春哉はさらに距離を詰めてきて、直樹のすぐ目の前に立った。

「ナオ、もっと小柄かと思ってた。俺より大きいね。」

「そんなに変わらないと思いますけど……。」

至近距離に嫌悪感を抱かないのは自分でも驚きだ。春哉の視線には一点の曇りも感じず、直樹の身体に走った緊張は、今まで経験したことのない類いの痺れだ。

「ナオ、カレー好き?」

「はい。好き、ですけど……。」

「昼の献立、カレーなんだよ。ナオも好きで良かった。ぴかりんはガキだ、って揶揄うんだけどさ、俺も大好きなんだ。」

「……ぴかりん?」

「竜崎光。三年の寮長だよ。この前まで俺と同室だった先輩。」

好きなものを躊躇いもなく好きだと言い、先輩をぴかりん呼ばわりする自由さに眩しさをおぼえて、直樹は思わず目尻を下げた。些細なことでも、こんな穏やかな気持ちを抱くことが長い間なかったから、春哉の口から出てくるものすべてが新鮮だったのだ。

そして春哉の笑顔に引きずられ、つい微笑み返していた自分に驚く。ずっと強張って動くことを拒んでいたはずの表情筋に思わず手を添えて擦る。

「どうしたの、ナオ?」

「……なんでも、ないです。」

「そう? わからない事は何でも聞いてね?」

「はい。」

初めて会った気がしないくらい、春哉の存在が抵抗なく自分へと馴染んでいく不思議さ。無条件に許されたような安心感は、直樹の心を解いていくには十分だった。









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