「ナオ、サッカー部入るの?」
息も絶え絶えに、背中へ抱き付いたまま離れない春哉が、至近距離から直樹の顔を覗き込んでくる。長い睫毛が瞬き、逸らさずジッと見つめてくる春哉の瞳に直樹は狼狽える。心臓が変な跳ね方をしたので、直樹は一呼吸置いてから口を開いた。
「まだ、決めてないですけど……。」
「うち来ない?」
直樹の名を連呼しながら彼が駆けてきた方を見遣る。校庭では陸上部らしき上級生たちが新入生たちを囲っていた。
「俺、足速くないし……。」
「皆速くないよ!」
そんなはずはないだろうと疑いの眼差しで春哉を見つめるが、彼は微笑んでいるだけで話に裏があるわけではなさそうだった。
直樹は中学生の頃、部活動をしていなかった。ほどよく身体を動かせるところなら、どこでも構わない。むしろ経験者が多いところは足を引っ張りかねないので遠慮したかった。誘ってくれた佐竹が球技で迷っていたから、直樹はそれに同行していただけだ。しかし拘りがないからといって、身体能力がそのまま反映されるような陸上競技を突然始めるのは少々抵抗がある。
「直樹。俺、サッカー部の説明、聞いてくる。直樹はどうする?」
「ナオは俺が責任を持って陸上部で面倒見るよ!」
一言も入部するとは言っていないのに、春哉が勝手に話を進め始める。しかし特段やりたい事があったわけではないので、話を遮るほどの決定打も持ち合わせていない。ヒラヒラと佐竹に手を振る春哉を横目に、直樹はサッカーグラウンドへ駆けていった佐竹を見送ることしかできなかった。
嬉しそうな顔で直樹の背に圧し掛かってきた春哉の重さを受け止める。春哉の強引さを疎ましいと思う気持ちは不思議となかった。むしろ自分にない押しの強さを憧憬の眼差しで見る。
「陸上部入ったら、毎日俺が飛ぶとこ見られるよ!」
「……。」
自信過剰にも思える言い草なのに、春哉からは傲慢さを感じない。ただ純粋に見て欲しいと甘えられているような気分になり、つい笑ってしまう。
陸上競技に敏くないので、飛ぶ種目があったかどうかと考えていると、春哉が初めて不安そうな顔を見せてくる。
「陸上部、ヤダ?」
「イヤじゃないですよ。」
半分諦めの境地だったが、頷いてみせると春哉の顔がパッと華やいで再び背に覆い被さってくる。
「じゃあ、決まりー!!」
そのまま手を強く引っ張られて、陸上部員が群がる場所まで連行される。途中、棒高跳に使うバーの横を通り過ぎ、直樹はようやく春哉の取り組む種目に合点がいった。
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朝霧とおる