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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー9

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ツインタワー9

ついて行くからといって、上が出しゃばれば良いというものではない。定期的な搬入を実現するための運搬方法や費用の話など現場レベルの話は理央に任せた。

時々言葉を補う程度で話はスムーズに進む。きちんと順序立てて話せるようになったのだな、と関心した。当たり前といえば当たり前だ。理央に関する営業スキルの記憶は、彼の入社一年目で止まっているのだから。成長を好ましく思いながら、相手方の上長も気分良く話を聞いているように見え安心する。

当初は病院食としての採用に難色を示された。食生活の文化の違いがある以上、馴染まないのではないか、という話が出たからだ。しかし一方で現場からはスパイス色の強い今の食生活だと、回復途中にある患者の身体には刺激が強過ぎるという声も上がった。

そこで試食をしてもらうことにして、日本食の当たりの優しい味が現場の担当者たちから高評価を受けた。結果、採用を前提に話を聞いてもらえることになったのだ。

「ネックなのは病院内で保管できるスペースがほとんどないという事だったかと思いますが・・・」

こちらの話には経営者の方が大きく頷いた。

「当社では市内まで車で一時間ほどのところに倉庫を確保してあるんです。市内の各施設への供給のために運搬も込みで契約をしています。病院の方には運搬費用も込みで、先日提示させていただいた価格でご提供できます。」

それを聞いて経営者は満足気に頷いてくれた。

「その数字なら現実的だ。こちらも調整できる範囲内だね。」

理央が視線を投げてきたので、小さく頷き返す。今日の目標としては契約の段階に足を踏み入れてもらうこと。具体的な納入時期が見えてくればそれも現実的になる。

「我が社としては六月から全稼働の予定で考えております。是非・・・」

「五月の中旬からはどうだろう?」

「五月ですか? 五月でも勿論対応させていただきます。」

「じゃあ、決まりかな。というのも、一つ納入業者が六月から撤退してしまうんだ。五月半ばから試験的に始めて様子を見て、六月から早速定期的に一年始めたい。」

まずは一年。その仕事ぶりで後の契約を延長できるかが決まる。しかし半年、最悪だと一ヶ月という単位も覚悟していたので、スタートとしては良い感触だ。今回は運も味方についてくれたようだ。

理央が一式、契約前段階の書類を渡す。どれだけ双方が共通認識を持って取引に臨めるかがトラブル回避の大前提だ。人が動く以上、トラブルはつきもの。あとはどれだけ入念な準備をしてトラブルの根を摘んでおけるか、ということだろう。

理央が一つひとつ順を追って打ち合わせ通り説明をし始める。着々と取引を進めていく後輩を頼もしく思いながら、説明に漏れがないよう彼の言葉に耳を傾けた。

笑顔で見送ってくれた担当者に重ねて頭を下げ、車に乗り込む。契約の山場は越えた。正式書類を交わす日取りも決まり、二人で安堵して病院の事務所を後にした。

古めかしいエンジン音を鳴らしながら、早速市内の渋滞に巻き込まれる。クアラルンプール市内の渋滞は忍耐を試される。目の前に広がる長い車列を見た後、真は溜息をついた。

落とした目線の先に埃の塊が見える。ギョッとして車内を見渡せば、長らく掃除をした気配がなかった。

「メンテナンスしてるのか、これ・・・。」

「さぁ・・・。」

「・・・。後で総務に聞いておく。」

「あんまり細かい事言うと、嫌われますよ?」

「日常的に使う物こそ、ちゃんと手入れしないと。」

「真さん、几帳面ですもんね。なんか昔を思い出します。あの頃、机が向かい合わせの堂嶋さんと対照的で面白かった。真さんの机、無駄な物が一切なかったけど、堂嶋さんの机はいつも雪崩が起きてましたもんね。」

あの頃と変わっていないのは理央も同じ。その手の事に神経質な真を、嫌がるでもなく尊敬するでもなく、ただ外野に立って愉快そうに笑っているだけだ。

この温度感を心地良いと思う一方で、進む先があるのなら、とふと考えてしまう。打ち消そうとしていた矢先に、理央と目が合う。ジッと見ていたから視線を感じたのだろう。

「真さん?」

「いや・・・何でもないよ。運転任せきりで悪いなと思ってさ。」

内心慌てたことを悟られぬよう、言い繕う。気持ちを隠すのが下手なら、いっそ開き直れるかもしれないのに、と馬鹿なことを思った。














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