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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー10

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ツインタワー10

理央と二人で帰社すると、ラーマンが待ち構えていた。早速話を聞くと、モスクの隣にある事務所で試食会が実現しそうだと報告してくれた。ハラル認証が下りているものであれば問題ないとのことで、日曜の昼頃の礼拝に合わせて事務所を開放してくれるらしい。

こういう案件は今まで築いてきた人脈が物を言う。現地採用の意義は人経費だけの問題ではないのだ。ラーマンの手腕に感謝し、宗教施設の隣りという場所柄の難しさを考え、この案件に関する現場の指揮はラーマンに一任することにした。
彼の地元を巻き込んでの催し物に彼も勇んでくれて、こちらとしてもホッとする。信頼して任せるのも真の仕事だ。真からしてみれば土地の理がない分心配は付き物だが、何度か個人的な催し物で付き合いがあるという彼を全面的に頼ることにした。

「当日でもその前でも、俺が顔を出すのは問題ない?」

「もちろん。遠慮しなくて大丈夫。」

「きちんと会って、向こうの担当者にお礼を言いたい。完全に向こうの善意で成り立ってるからな。」

「当日で良いと思うよ。彼、普段は観光客のガイドで忙しいんだよ。」

「そうか。では当日伺う旨を伝えておいてくれるか?」

ラーマンが満足気に頷いて寄越す。彼をデスクに戻らせ、自分のデスクのノートパソコンに目をやると、付箋がたくさん貼り付いていた。心の中でこっそり溜息をつき、各方面への電話に時間を費やし始めた。

急ぎのものを先に捌き切った後、最後に緊急性を要していないと思われる本社からの電話に折り返す。相手はこちらに来る前に所属していた部署の人間だ。正確に言うと、真はまだ本社サイドの人間で、体裁としてはマレーシア支社に長期出張で来ていることになっている。

『小野村、久しいね。』

「まだ二週間も経ってないですけどね。」

『冷たいこと言うなよ。まぁ、あれだ。決まりきってる異動の話ね。』

「もうすでに来てますからね。」

『だよね。』

向こうの電話口にいるのは、営業部長である勝田。彼の戯言に付き合いつつ、あまり長くなると面倒だなと天井を仰いだ。

『そっちはどう? 慣れた?』

「シンガポールとはお国柄も違ってテンポがまだちょっと、って感じですけど。でも、成るように成りますよ。」

『相変わらずクールだねぇ。まぁ、プロジェクトもその調子でよろしく頼むよ。来年度からはがっつり数字つくから。』

「わかってます。俺、そのためにこっち呼ばれたようなものですからね。」

元々は真抜きのメンバーで動くはずだった。堂嶋が真のポジションにつく予定だったのだが、堂嶋がマレーシア支社で進めていた別のプロジェクトが当初の計画より軌道に乗るのが早かった。堂嶋が二つの掛け持ちするのが現実的ではなくなったため、当初日本の本社で後方支援に回るはずだった真が呼ばれることとなったのだ。

候補は真の他にも二人いた。しかし海外勤務の経験値と堂嶋との繋がりを考慮され、最終的には真が適任と判断された。

『数字に煩い案件は、小野村を使うのが手堅いからね。』

「そういう事、本人に言います?」

『数字作れるまで帰って来なくていいから。』

「数字作れても、当分こっちにいますよ。」

自分でサラリと言い返したわりに、心は騒めいた。まだ帰りたくない、と強く思ってしまったからだ。理央の事が頭にチラついたのは言うまでもない。

『いいね、やる気あって。あ、もしかして、そっちの方が楽?』

楽しそうに聞いてくる上司に、わざと聞こえるように溜息をつく。

「勝田さんこそ、こんなダラダラ電話してて暇なんじゃないですか?」

『言うねぇ。まぁ、仰る通り。承認しなきゃいけない案件があり過ぎて、どれから手つけるか迷っててね。呆然としちゃって、かえって暇なんだよね。』

「それ、周りから苦情来るパターンですから。早く仕事してください。で、本題は?」

『相変わらず、せっかちだねぇ。まぁ、いいか。あのね、当分はその体制でやってもらう、って話。どんなに繁盛しようと向こう二年は増員なしだから。』

「まぁ、予想通りですね。」

今年、本社の人事は新卒採用の際に、英語の話せる要員を十分確保できなかった。去年の秋の時点でわかっていたことではあるが、教育には時間がかかる。

『小野村がいるからマレーシアは大丈夫、ってことでね、後回し。』

マレーシア支社にいる本社サイドの人員はそのほとんどが中堅だ。勝田の言うことを額面通り受け取るほど馬鹿正直ではないが、あながち外れてもいないのだ。経験者で何とか最初の数年は持ち堪えろということだ。プレッシャーではあるが、任された以上結果は出したい。

「頑張らせていただきますよ。次に会った時、お互い旨い酒が飲めるようにしたいですから。」

『期待してるよ、小野村。そういえば、おまえの雛には会った?』

「はい?」

雛と言われてすぐに顔は思い浮かんだが、目の前に本人がいるので、わざととぼけて返す。

『ほら、島津。俺もそっちに出して以来会ってないからね。どう、元気?』

「元気ですよ。」

『今も成長期真っ只中だろ? 頑張ってもらわないとねぇ・・・あ、まずい。システムの奴等とこの後打ち合わせなんだ。留松がなんか目の前で怖い顔してるからさ、切るね。』

喋りたいだけ喋り倒して一方的に電話を切った勝田に、もはや溜息すら出ない。留松はシステム部の課長だ。真が出国する直前、見積りのシステムの件で揉めていたから、きっとその事だろう。留松も勝田相手にご愁傷様というところだ。

勝田は営業としてはかなりやり手だ。部長になった今でも、そのノウハウを徹底的に部下へ叩き込んでいる。なかなかの曲者だが、懐は広い。そしてよく人を観察している。味方として営業に出る時は心強いが、他の部署の人間は渡り合うのが難しい相手だろう。その手腕ですぐに丸め込まれ、仕事をさせられるからだ。

心の中で留松に手を合わせ、チラリと視界の隅に理央を入れる。誰も彼もが明確な意図を持って理央の話題を自分に吹き込んでくるわけではない。けれど話題に出されれば動揺するぐらいには参っていた。

仕事はスタートラインに立ったばかりだ。区切りがつくまで耐え切れるか、真は不安に思いながら理央から目を逸らした。













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