*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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堂嶋が気付いたというなら、自分も目を凝らせば真実を見つけ出すことができるのだろうか。
住むフロアが違うので、コンドミニアムのエレベーター内で堂嶋に別れを告げた後も、一人悶々と考え続けた。
堂嶋の言葉を鵜呑みにしたい自分と、勘違いだと否定する自分の板挟みになり、その夜は心底疲れた。正直この手の疲労は有難くない。悩んだところで答えが見つかるとも限らず、疲弊するだけ時間の無駄だと囁く自分もいる。
結局真は抱えるプロジェクトの最初の区切りがくる春まで、このことを考えるのをやめることにした。仕事を中途半端にすることだけはプライドが許せなかったからだ。
毎日顔を合わせる理央のことを考えずに過ごすのは難しい。けれどプライベートな感情に振り回されて仕事が手に付かないほど未熟ではないと思っている。
物理的に距離を置くことで逃げた過去はあるものの、今となっては、理央を好きな自分と彼の上司である自分を分けて考えられるくらいには冷静だ。恋だけに振り回されるほど、自分はもう若くはない。
心の中に自然と描かれてしまう理央の笑顔を、無理に掻き消す必要はない。心の隅に置いて、熟考できるまで寝かせておくだけだ。そうやって心の整理を一晩のうちにして、翌日真は何食わぬ顔で出社した。
堂嶋にはひとまず保留の旨を伝えて先手を打った。その手のちょっかいを出してくるかはわからないが、何度も突かれれば、さすがに自分の心が折れるだろうと思ったからだ。
やる事に優先順位を付けただけ。逃げるわけではない、と言いつつ、やはり逃げだろう。ただ今は向き合う覚悟とそれに費やす時間がない。自分の気持ちを蔑ろにはしたくないからこそ、時期を見ることにしたのは嘘ではない。
ホワイトボードに自分のスケジュールを黙々と書き込んでいく。真は可能な限り一日のスケジュールを事前に晒しておく。そして各々のメンバーにもそれを求めている。その方がメンバー間に時間のロスがなくなるからだ。また、自分の行動や時間の使い方に責任を持てるようになる。一人で仕事をするのではない、と常に自覚をして仕事をしてもらいたいという意図もあった。
一通り書き終えると理央が真のスケジュールを覗き込んできて午後の部分を指す。
「午後一で例の病院の担当者と会うことになってるんですけど・・・同行してもらえませんか?」
「もしかして、もう一押し?」
「はい。現場の担当者とはほとんど話がついてて、後は経営者レベルの話なんです。」
本来はそこで手腕を発揮してこいと言いたいところだが、なにぶん真もマレーシアでの場数が少ない。早くここの空気感を知りたいという気持ちが勝った。
「わかった。行く二時間前までにこれまでの経緯を纏めたもの、寄越して。」
真がそう言い終わらないうちに、理央は企画書を一部と別紙を一枚渡して寄越した。用意周到なその行動に苦笑する。
「最初からそのつもりだったな、おまえ。」
「いや、駄目もとでしたよ? 事前に準備しておかないと、絶対言われるから。」
「当たり前だ。おまえ、自分が社会人何年目だと思ってる。」
額にデコピンをかまして、てっきり顔を顰めて痛がるかと思いきや、サッと頬を染めた理央に一瞬面食らう。騒めきそうになる心を無理やり抑え込んで、見て見ぬフリをした。
「じゃあ、見ておくから。」
「はい・・・。」
何事もなかったように企画書で理央の肩をポンと軽く叩いて自分のデスクに戻る。今、理央の顔を見返す勇気はない。まだ自分には事実だと受け止める心の余裕はなかった。
こんなわかりやすい反応を示してくる彼の気持ちに、何故今まで盲目でいられたんだろう。堂嶋が彼をわかりやすいと評していたのも、今なら納得せざるを得ない。
真は頭を無理矢理仕事へと切り替えて、理央の反応を頭の隅へ追いやった。
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