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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー7

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ツインタワー7

別のプロジェクトで動いている堂嶋から夕飯の誘いを受け、二人で定時に社を出る。理央が営業をかけている時間帯を狙って耳打ちしてきた堂嶋に、何かあるなと得心した真は、連れて来られたバーに首を傾げる。見渡すと仕事帰りの外国人サラリーマンが多い。

「おい、堂嶋。ここに何かあるのか?」

「ちょっとおまえに会わせたい連中がいてさ。ほれ、あのグループ。」

堂嶋が声を掛けたのは日本人が集っているテーブルだった。

「業界は色々なんだが、全員日系企業の駐在員だ。ま、連れ出したのはこっちがメイン。」

「メイン、って・・・。違う話もあるのか?」

「それは後で。一時間後、そっちのテーブルに行くから。ちょっと俺は別のテーブル行ってくるわ。」

「は?」

「まぁ、いいから、いいから。じゃあな。」

勝手に連れてきて、勝手に去っていく同期の背中を見送って、せっかくの機会を無駄にしまいとテーブルの面々に頭を下げる。するとすでに酒が入った面々は和やかで、気兼ねなく話せる雰囲気があった。しかも堂嶋がすでに真の前情報を渡していたらしく、難なく場に馴染むことができた。

「世界でも日本食は注目されてますからね。やり甲斐あるでしょ?」

「イスラム圏は正直未知の世界ですから不安もありますけどね。知識だけじゃ、どうにもならない文化の壁もあるだろうし。まだそこにぶち当たってないから、全てが恐る恐るって感じですよ。」

「マレーシアは寛容な国です。暮らしてて実感することも多いですけど。おおらか、というか。」

それには同意見なので、真も頷く。

「それに伝統と最先端が上手く融合しそうな国でもあるから、面白くて。今若手のアーティストたちも熱いですよ。イスラムの伝統文様を若い人たちにも見直してもらおうって、色んな人たちが模索してるって感じです。」

「この前、うちにイラストレーターの人が営業に来てて、タイミングが合わなくて仕事には至らなかったんですけど・・・ほら、こんな感じの絵を描く人なんです。」

差し出されたタブレットに写し出されていた作品は伝統的な柄をあしらったカーペットだった。タブレットを差し出してくれた彼は、自動車やバス、大きなものだと航空機の内装を手掛ける企業に勤めている。向こうの狙いは確かに外れてはいないだろう。

「こういう柄って昔は全部手作業で描かれてたんですけど、彼は何千ってパターンをデジタル化して、短時間で容易に色んな組み合わせができるようにしてるらしいです。だから納期もタイトなものに合わせられるし、手応えありますよ。」

食品を扱う真の会社も、デザインやアートの世界は無縁ではない。パッケージには合理性と共に、人々を惹きつけるための何かを盛り込まなくてはならないからだ。そういう意味で真の仕事もこういう情報を侮るわけにはいかない。

「いいこと教えてもらえて助かります。まだマレーシアに関しては全く無知なので。そういう情報って自分で集めるには限界がありますしね。皆さんは、よくこちらにいらっしゃるんですか?」

各面々が頷くので、真も時間が許す限り足を運ぼうという気になった。同じ日本人という気安さは異国の地において有難い。そして好きで選んだ仕事でも、懐かしく思う場所が同じだというのは案外心強いものだったりする。

「小野村。どう?」

「収穫あったよ、サンキュ。色んな業種の人たちと情報交換できるのは貴重だ。」

「だろ?」

「で?」

真としては堂嶋がここへ連れ出してくれる意味もわかりつつ、やはり一人で呼び出された意図の方が気になる。二人で立ち飲みスペースの隅に立って、真は本日三杯目のビールを手にした。

「じゃあ、こっからは小野村を一人で連れ出してきた本題。」

「ああ。」

「島津のことだよ。」

「・・・理央?」

豪快に酒を空けていく堂嶋を横目に、理央の話を振られて戸惑う。二人で話さなければならないことなんてあるだろうか、と思ったからだ。

「この間は適当に話合わせてたんだけどな・・・俺さ、あいつが誰を好きなのか、わかってんだよね。」

「は?」

飲みかけていたビールで咽せそうになり咳き込む。心臓が嫌に跳ねて、堂嶋を凝視した。

「好きになったのが、七年前だろ?七年前って言えば、あいつが入社した時だ。手塩にかけて世話してたのはどこのどいつだよ。」

自分だよと言いかけて、真は言葉を呑み込む。まさかと堂嶋を見て、思いの外真剣な眼差しとぶつかり、彼が冗談で言ってるのではないのだと気付く。

「言うのが良いのか、言わない方がおまえさんたちのためなのか、俺もそこそこ悩んだんだよなぁ。ただ、あんなの聞いちゃったら、黙ってられないだろ。両想いなのに。」

今度こそ聞き捨てならない堂嶋の言葉に目を見張る。

「何年、おまえと仕事してたと思ってんだよ。ある意味、嫁さんと過ごす時間より長かったことだってあるんだぞ。島津に関しては最初からわかりやすかったけど。シンガポール赴任前に島津を避け出したおまえも、そこそこわかりやすかったよ。」

堂嶋の言うことに頭がついていかず、酔いかけていた頭は一気に冷めた。自分の気持ちがバレていたなんて、思ってもみなかったからだ。

「なんだか微妙な反応だな。喜んでも良さそうなもんだけど。」

爆弾を落としておいて、他人事のように動じない彼に、自分の感覚がおかしいのだろうかという気になってくる。

「悪い・・・ちょっと、混乱してる。」

「まぁ、悩むのは結構なんだけどさ。俺には関係ないし。」

「最低だな・・・。」

真の言葉に意地の悪い笑みで堂嶋が応えてくる。

「指咥えて、眺めてるだけでいいのかよ? 絶対、後悔するぞ。」

「・・・簡単に言うなよ。そもそも、男同士ってとこに抵抗はないわけ?」

「別に。好き嫌いに、男も女も関係ないだろ。島津なりに、一世一代の告白だったんじゃねぇの? この間の話。」

そんな事を唐突に言われても、ピンとこない。少なくとも自分に向けられたものだなんて思いもしなかった。そんな想い人がいたことにむしろショックを受けていたくらいなのだから。堂嶋の勘違いということもあり得るわけだ。

しかし堂嶋の言い方はまるで断言するような言い方だ。彼は昔から人間関係の機微には聡い。ふざけて人を揶揄うのが好きな奴ではあるが、人の心を踏みにじるようなことをしたりはしない。

「おまえもフリーズすることあんだな。」

苦笑して堂嶋は順調にグラスのビールを空けていく。自分のいた世界がひっくり返り、今まで見えていなかったものを一気に突き付けられた気がする。堂嶋の言う通り、理央の気持ちが自分に向いているのだとしたら、と考える。しかしあまりにその考えは都合が良過ぎて現実離れしているようにも思えた。

堂嶋がその後も気にかけて言葉を重ねてくる。しかしそのほとんどはバーの喧騒の中、右から左へと流れていき、碌に耳には入らなかった。














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