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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー6

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ツインタワー6

プロジェクトメンバーがそれぞれ上げてきた報告書と企画書を事細かに確認していく。しかしどれを取っても詰めの甘さがある。おおらかでざっくりとした風土と言ってしまえばそれまでだが、テコ入れの必要さを真は感じた。

今回のプロジェクトはマレーシアでの展開だけに絞っているわけではない。いずれはハラル食品を必要とする人たち全体に根付かせたいという野望がある。そのためにはグローバルで通用する仕事の仕方をスタンダードにする必要があるのだ。

食品審査が厳しい国もあれば、パッケージのデザインに対する目が厳しい国など、それぞれの国・地域で独自のルールや求められるマナーがある。それに素早く順応し仕事を進めていくためにも、事細かな気配りと事前の準備が随所に必要になってくる。

マイペースなメンバーたちをどう取り纏めていくか思案し、真はまず主任である理央を呼び寄せた。

「まず市場リサーチの方だけど、少し見ている範囲が狭い。もう少し俯瞰しろ。例えば、病院施設そのもののデータはきちんとここから読み取れるんだが、それだとただの点だ。工場と病院を繋ぐルートで問題になってくる道路事情とか、雨季と乾季で何か環境や人の動きに違いが出てくるならそういう情報も欲しい。」

「はい。」

「そういうデータを近々に収集できる目処はつく?」

「大丈夫です。」

「そうか。じゃあ、引き続きよろしく。後はこっちの企画書だ。デザイン事務所に依頼する時、いつもこういう状態?」

ちらりと目をやれば、真が詰めの甘さを指摘しようとしていることに気付いたのか、恐々と理央が頷く。昔から察しは良い。しかし真が注意をしようとすると顔が強張るのも、あの頃と変わっていない。なんだか可笑しくて悟られないように心の中で笑った。

「俺たちは専門外だからこそ、スタートはより一層大事になる。あちら任せにすれば、出来もそれなりになる。調べてみたら今まで何度か付き合いがあるようだから、こういう状態だとデザインも納期も馴れ合いで適当に流れていくだけになるぞ。わかるよな?」

「はい。」

「俺ので悪いんだけどな、これ。今までその手の仕事で日本とシンガポールでやってきた企画書のストックだ。費用はそれぞれのお国柄だから必ずしも参考にはならないけど、他のノウハウは活かせると思うよ。」

理央が目の前に積み上げたファイルの束を驚いたように見る。

「俺、見ちゃって良いんですか?」

「入社当時のは正直見れたもんじゃないけどな。」

笑って冗談めかして言うと、ようやく理央は肩の力を抜いたようで微笑む。

「真さんにそういう時期があったとか、俄かには信じ難いけど。でも、ありがとうございます。」

「頭の中に全部ストックできればそれに越したことはないけど、人間の頭はそこまで出来は良くないからな。成功したやつも上手くできなかったやつも全部残して整理しておけ。現物があれば、すぐに頭の中から引き出せるだろ?」

「はい。」

渡したファイルを抱えてフッと笑みを溢した理央に目で問う。

「やっぱり真さんだな、って。真さんのテンポって感じがする。なんだか懐かしくて、嬉しい。」

「浮かれてないでモノにしろよ。」

わざと低い声で釘を刺せば、真のデスク前で背筋を伸ばした。このノリの良さと吸収の早さ、そして自分を慕って追いかけてくる姿にかつての自分は心奪われたのだ。そして今もその気持ちがなくなっていないことを自覚する。

社会人としては、重ねた月日の分だけ成長してきたと冷静に分析できる自分がいる。けれど誰にも晒したことのないプライベートな心の核心部分は、何ら変化がないことを苦々しく思った。

「ファイルはオットとラーマンにも回して構わないよ。シンガポール時代のは英語だから、あの二人とも共有できるし。出来の悪過ぎる新人時代のやつを読まれないで済むのは幸いだな。」

そう言うと、理央が嬉しそうに笑う。

「じゃあ秘密にしておきます。」

「そうしてくれ。」

愉快そうに笑っている理央をデスクに戻らせて、ラーマンを呼び寄せる。指導だけで午前中をめいいっぱい使う羽目になりそうな予感に、真はこっそり溜息をついた。














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