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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー4

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ツインタワー4

現地から遠く離れた机上の会議は大概的を得ていない。日本で出来たことがこちらで通用するかは全く別の話だ。リーダーだからといってトップダウンの状態にはしたくない。真が先に発言してしまうと後に続く者は引き摺られてしまう。しかし先にメンバーから話を引き出してみたものの、出るものは想像していた範疇を超えてはくれず、話が進まなかった。

「日系企業であれば流通経路がある程度確保されているので問題はないと思います。店舗も増えていますし・・・」

真を除いたプロジェクトメンバー全員が早々に言葉を濁し始めたところで、真は割って入ることにした。

「これまでの流通経路は勿論活かす。だけどそれだけだとやっていることが今までと同じだから。商品をそのままの状態で卸すことばかり考えないでほしい。例えば業務用の形態を取れば飲食店なんかにも卸せる。そう考えていくと、大きな工場で食堂を持つようなところも候補になるだろ。ハラル食品であることと、うちの強みも忘れてもらったら困る。食物アレルギーに考慮した商品も展開していくから病院なんかでも使ってもらえるかもしれない。」

三人全員が興味深そうに頷いてくる。現地スタッフのメンバーも食い付いてくれているようで反応はまずまずだろう。

「今持ってるルートは死守するとして、どれだけ販路を広げていけるかも考えないと。視野を広げれば、隠れてる需要がまた見つかる。そうすれば、また新しい商品開発にも繋がるから。日本と文化が違うからこそ、日本とはまた違う需要が眠ってるはずだよ。日本の市場でも考えられる点を潰していくのと同時に、マレーシアならではの市場も探していく。だからここで長く仕事をしてきている君たちの経験値は何にも勝る武器だよ。そう言われて何か思いつくことはある?」

こういう発言の仕方をする時、真はいつも高圧的にならないように気を付けている。自分の意見を押し付けるのでは意味がないからだ。メンバーを見渡すと、顔を上げた理央と目があった。

「直接利益として結びつくものではないんですけど・・・。」

「何でも構わない。言ってみて。」

少し不安そうにこちらを見ながら、それでも決意したように理央は話し出した。

「モスクには沢山のイスラム教徒の方たちが集まりますよね。大きなモスクだと会議室とかが併設されてるんです。休日の人出が多い時を狙って試食会みたいなものを開けば、ターゲットの方たちへダイレクトな宣伝になると思うんです。」

「なるほどね。広告をばら撒くより、よっぽど効果がありそうだ。ただ神聖な場所だから、売り買いには適さないだろうね。試食会が出来るかどうかの現時点での可能性は?」

理央が現地スタッフのラーマンに目配せをした。事前にこの二人の間で話が持たれていたらしい。ラーマンはマレー系で自身もイスラム教徒だ。

「クアラルンプール市内のモスクの一つで会議室を開放してくれるところがあるよ。知り合いが担当だから話しをつけられる。売買をしなければ大丈夫だってところまで話がついてるから、後は公衆衛生面でどんな手続きをしなきゃいけないかだけど。具体的に出すものが決まれば後はどうにかなるよ。」

現地スタッフの人脈は馬鹿に出来ない。その土地の理を得ているから話も早い。ただの思い付きではなく、きちんと裏付けがあることに感心した。

「そうしたら、ラーマンとオットには認証予定のどの商品が試食会に適してるかまず考えてもらおうか。理央には商品展開できる可能性のあるところに営業をかけてもらう。目星くらいは今付けたいんだが、どうだ? 今まで付き合いのあった日系企業の食堂とか、病院とか・・・。他に何か思い付く?」

三人を見回せば、会議メンバーで一番年長のオットが手を挙げた。

「小野村さん、小学校の給食もいいかもね。」

思い付いたのが嬉しいのか、オットが笑顔でのんびり告げてくる。

「マレーシアでも給食はあるのか? それは知らなかった。」

「というか設備が追い付いてなくて、あまりちゃんとしたものが食べられてないのが現状なんだ。子どもたちはそんなものだと思ってるけど、日本の子どもたちの食べてる給食を見たらびっくりするだろうね。ネットで話題に上がってて知ったんだ。」

オットの切り口はここで生活を営む者から上がってきた貴重な生の声だ。真は自分が持ってきたカードに新たなカードが加わってくれた事を実に新鮮な気持ちで受け止めた。新しいことに挑める高揚感は、飽和状態の日本ではあまり味わえない。

「なるほど。全てが手探りって段階なんだな。でもそれは凄く面白い。良い話を聞いた。」

真はメンバーに頷いて、それぞれの持ち場で早速奮闘してもらうべく、会議を解散した。














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