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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー3

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ツインタワー3

会社で借り上げているコンドミニアムの一画。理央とは同じ階だった。エレベーターからは理央の部屋の方が近く、上がっていかないかと誘われたが、丁重に断った。夜も更け始めている。明日も仕事があるのに今から飲み交わすのは賢いとは言えないだろう。終始明るい笑顔を振りまく理央に見送られて、新しい我が家へ向かった。

スーツケース一つで乗り込んだ部屋はガランとしていて、どこか物悲しい。息をついて今別れたばかりの理央のことを想う。

人懐っこいのは相変わらずで、良い意味で社会人としての階段を昇っていることを窺わせた。彼の教育係をして、そのままずっと慕ってくれているなんて嬉しい話だ。普通ならただそれだけの話。可愛い後輩に懐かれて、少し先輩風を吹かせられることに優越感を覚えてみたり。けれど自分の気持ちはその先に踏み込んでしまった。

自分の気持ちに気付いたのは、六年前シンガポール行きが決まった後だった。日々引き継ぎに追われ、赴任まで一ヶ月を切った頃、自分の事に精一杯で理央の教育係として割ける時間はそう多くなかった。先輩としてそれを申し訳なく思っていたりしたぐらいだ。けれど少しでも多くの何かを吸収しようと必死に食らいついてこようとした理央。自分に褒められたくて必死に走り回る姿を嫌だと思うはずがない。そんな彼の姿を見て愛しいと思い、去ってしまう真に寂しいと口を溢すその横顔に、不覚にも欲情していることを自覚した。

男を好きになったことはない。それまで自分の性的指向はノーマルだと思っていたし、ちゃんと女性と交際し身体を合わせてきたから疑ってもいなかった。けれどこれほどに惹かれ一挙一動に囚われたことはない。そのことが自分に一つの答えを示していた。

しかし心で受け入れたからといって、想いを伝えようと思ったことはない。事実、シンガポール行きを盾に、この気持ちに蓋をした。

それから六年が経つ。真はシンガポールで出会った日本人女性と結婚し、結局離婚した。あちらから好意を寄せてくれて、それに乗じた。けれど愛していないことは日々営む生活の中で伝わってしまうものなのかもしれない。どこか冷めて捉えていた結婚生活。親の目を気にして決断した結婚だった。そんな中、離婚を口にしたのは妻の方。そして引き留めることもなく、あっけなく一年の結婚生活に終止符を打った。

親には修復する努力をしなさいと散々諭されたが、そもそもそれ以前の問題だったので、耳を貸す気にもならなかった。仕事の忙しさを理由に親の小言を取り合うこともなく、親子関係にまでヒビを入れる羽目になった。しかし後悔は全くしていない。離婚が正式に成立した時、真は心底ホッとしたのだ。

同じ組織に属しているとはいっても、従業員の数は軽く一万を超える大所帯。営業職は転勤も多く、海外勤務も多岐にわたる。まさか同じ部署で再び会うことになるとは思っていなかった。

六年前、消したはずの気持ち。心の中でそれが燻り始め、急激に膨らみ出したのを感じる。仕事とプライベートを切り離して仕事に没頭することは、自分にとってさほど難しいことではない。けれど自分を偽り続けることに疲れていることは否定できなかった。

手土産に貰った冷やしてもいない瓶ビールを開けようとして、栓抜きがないことに気付き一人苦笑する。マレーシアはイスラム教徒が多いため、アルコールを含む飲み物を手に入れるのに一苦労だと聞いた。外国人向けの高級クラブなど、ある場所は限定的だ。

貴重な土産物を前に肩を落として、ネクタイを外す。そのまま一人なのをいいことに、フラフラ歩きながらズボンを脱ぎ捨て、汗の張り付いたシャツを洗濯機に投げ込んだ。

必要最低限のものはこの部屋に揃っている。冷蔵庫に洗濯機、コンロが二つの小さなキッチン、ソファとテーブル、シングルにしては大きめなベッドに、トイレ、ユニットバス。備え付けのクローゼットは一つしかないが、自分一人にはこれで十分だ。

潤いを感じないプライベートに、この六年間どこか諦めた気持ちでいた。仕事は充実している。それだけでも十分男として誇るべきじゃないかと、自分に言い聞かせてきたのだ。

けれど今ここで鮮明に寂しさを感じてしまうのは、理央に会ってしまったからだろう。

コロコロとめまぐるしく変わる表情。向けてくれる好意の意味が自分と違っていたとしても、好かれていることを心地良く思う。懐いて食らいついてきた愛しい一年坊主は、随分精悍な顔立ちに変わって目の前に現れた。同じ気持ちだったらどんなにいいかと、思うくらいは許して欲しかった。

期待してくれている。想う相手には格好良い自分でいたい。単純に男としてそう思う自分がいる。どうせ叶わない想いなら、せめて彼の望む理想の自分でいたい。好きな気持ちそのものが間違っていると断絶したくはない。心に仕舞っておけば、理央を困らせることもないのだから。

バスルームへ直行し、シャワーのコックを捻る。水量が安定していないのは東南アジアだとよくあることだと聞いている。なかなか熱くならないシャワーに業を煮やし、冷たいままの水を頭から被る。すると歓迎会でたっぷりと吸収したアルコールが一気に抜けていった。

今日一日理央と過ごし、過去の恋がちっとも過去のものになっていないことに気付いてしまった。あんな勘違いをしたくなるような熱っぽい視線で懐いてくるなんて反則だ。疼きそうになった下半身を無視して、たいして泡立たない石鹸で身体を強く擦り洗っていく。

明日からまた仕事で顔を合わせる。その日常に慣れなければいけない。気持ちに気付き、すぐにタイムリミットがやってきた六年前とは違い、今回は終わりが見えない。まだプロジェクトは始まってもいないのだ。

仕事人間の自分を頭の中で呼び寄せる。遣り甲斐を感じ自ら望んでやってきた仕事だ。恋にうつつを抜かしている場合ではない。そんな事をしたら、自分で自分にうんざりしてしまうだろう。

ようやく温まり始めたシャワーの湯を全身に行き渡らせたところで湯を止める。騒ついていた心がちゃんと凪いでくれたことにホッとした。まだ、大丈夫。自分はちゃんと全うしなければいけないことを見失ってはいない。

真は深く息を吸い込んで、心の澱を全て出し切るように息を吐き出した。















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