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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー28

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ツインタワー28

材料が所定の場所にセットされ、一定のリズムで忙しなく人も機械も動いていく。この流れを確保するにも様々な人の労力が費やされている。

「圧巻ですね。日本でも入社したばかりの時に工場研修とかしましたけど、あの時はまだどこか他人事だった気がするから・・・。感動するものですね。」

隣りで目を輝かせている理央に微笑んで、真は主に人の動きに注視して現場を眺めた。

規定の厳しい作業服を纏い、決められた作業をこなす。単純なようで、きちんと守る意義を見出して仕事をしてくれる人材は、簡単には育たない。現場責任者の忍耐力が試される。

工場で働くのは、ほとんど現地のマレー人や華人だ。彼らの人柄を把握し、文化を受け入れることから、まずその仕事は始まる。ただこちらのやり方を押し付けるだけでは、せっかくのノウハウも生きてこない。現場監督の日本人スタッフに現状を確認する。

「礼拝の時間とかのやり繰りはどう? 揉めたりしてないか?」

「タイムスケジュールを上手く組んでやってますので、今のところ特に問題は起きてないですね。」

「些細なことでも何かあったら連絡してくれ。何事も火種が小さいうちにちゃんと話し合えば、不満も大きくならないだろうし、人材の流出も防げるから。」

ラーマンやオットが作業員たちに声をかけている。管理する側とされる側、双方に優劣感情がないことは重要だ。どちらも良い物を作るために必要とされる人材であることを共有していたい。だから真は時間の許す限り現場に顔を出し、感謝を伝え合える関係でありたいと思っている。それは日本にいようが他のどの国にいようが関係ない。

「日本でも出せたら面白いのにな。」

「まぁ、まだ先の話だけど、目標は高く持っておかないとな。」

「はい。」

理央と二人、ラーマンとオットの後を追って、作業員に挨拶をして回る。健全に稼働するかは、機械が作業の大半を担う現代であってもなお、人がどれだけ心を尽くせるかにかかっている。人の怠慢な心を、機械が補ってくれるわけではないからだ。

工場内のめまぐるしさに少々当てられながらも、手応えを感じて工場を後にする。ラーマンとオットが意気揚々と次の展開を語り合う様子をなんだか新鮮な気持ちで聞き入る。

「日本人の口にはどんな料理が合うと思う?」

「日本の女の子たちは新しい物好きだよ。彼らにとって変わり種が良いかも。」

「小野村さん、来たばっかりだから実験するのに最適だね。」

「自己流にアレンジするのが日本人は得意だから、新しい料理ができちゃうかも。」

実験台にすると言って、話が勝手に盛り上がっていく。話の輪に理央も混ざって、珍妙な物を食べさせられそうな気配に、暑さによるものではない汗が背を伝う。三人が好き勝手に発し始めた言葉に苦笑しつつも、それを微笑ましく思う。

日本では夢を語り合う前に確固たる結果を求められるけれど、高い目標があってこその成果だ。社会の波に揉まれて置いてきてしまったものを教えられている気がする。結果を求めるのも自分の仕事の内だ。しかし大切なものはそれだけではないだろう。

「理央、同行先の資料、いつまでに寄越せる?」

「社に戻ったら、すぐ渡します。今朝の議案も参考になるものをピックアップしたので、夕方までにまとめて渡しますね。」

「わかった。よろしく。」

理央が嬉しそうに向けてくる笑みに、つい手が伸びそうになる。動かしかけた手を咄嗟に腕組みへと変えて、内心苦笑する。

どうにも自分は柄にもなく浮かれているらしい。つい漏れ出る甘い空気に慣れるまで、しばらく時間がかかりそうだ。

真は理央に悟られないよう、青空の下、幸せな溜息をついた。













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