*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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一週間という短い帰国の間に異動の内示を受け、プライベートな時間は借りていたアパートの始末や各種手続きに追われた。いざ引っ越すと言っても、これといって持っていく物もない。出国ギリギリまでアパートにいることは手続き上できなかったので、最後の二日はホテル住まいだ。
「進行具合は予定通りってことだな。早め早めの方が何かあっても猶予があるから助かるんだけどな。まぁ、そこは日本と違うからトラブルがあったらその都度どうにかするしかないな。」
『アブバカールさんがね、マレーシア発のレトルト食品を日本で出すようなことがあったら、パッケージやらせて下さい、って言ってました。真さんにも、そう伝えてほしいって。』
「アジアのものは女性受けが良いし、マレーシア支店発の商品が作れるなら面白いね。前向きに検討しておく、って伝えてくれ。」
『はい。』
「じゃあ、明日までよろしく。あ、そういえば・・・明後日の帰国の時、迎えに来なくても大丈夫だよ。高速バスもあることだし、荷物もこれと言ってないから。わざわざ来るのは面倒だろ。」
『え・・・いえ、でも・・・』
急に歯切れの悪くなった要因をすぐに察し、それでも来なくていいと断った。
「おまえは貴重な戦力なんだから、仕事が優先。空港から直接会社に向かうから、すぐだよ。」
『・・・。』
押し黙る理央に、電話越しに聞こえないよう声を出さずに苦笑した。少しでも早く会いたいらしい。それで迎えに来ると言い出したのだ。飛行機が着くのは始業前だが、手続きをしたり荷物を待っている間にも時間は過ぎていく。しかも朝のクアラルンプール市内は渋滞が酷い。
「理央、わかった?」
『・・・わかりました。』
明らかに納得していない口調だが、部下として言われていることはわかっているのだろう。不承不承という感じだが、返事を寄越した。
すぐにでも会いたい、だなんて可愛い我儘だ。どんな顔して言っているのか容易に想像できるだけに、ついつい会社にいるのも忘れて顔が緩みそうになる。勝田の視線が怖過ぎて危ない事は言えない。先ほどから勝田が聞き耳を立てていることに、真は気付いている。
「じゃあ、切るよ。」
『はい・・・。』
ほんの数秒、受話器が切れる音を待ったが、理央から切る気配がなく、真の方から受話器を置いた。きっと本当は、今夜電話がしたいとか早く帰ってきてとか、言いたいことがあったんだろう。けれどお互い会社だから馬鹿な真似はしない。ただ、名残惜しくて自分からは切れなかった。そういう事なんだろうと真は解釈した。
帰国後のバタバタで碌に連絡を入れていなかったら、痺れを切らして理央の方から電話をしてきた。それがつい昨晩のことだ。呂律が回っておらず、聞くと堂嶋に飲まされたらしい。寂しいだの薄情者だの、普段の理央なら言ってこないようなことを電話口で言い募り、最後の方には泣きが入った。
明るく快活なのが取り柄の彼も、真に会えないのが寂しいと言って泣いてくれる。酔っ払い相手に宥めすかして電話を切るのは一苦労だったが、そんなことすら愛おしい。帰ったら甘やかしてやろうと考えて、ふと気付く。マレーシアに仮赴任して二ヶ月ちょっと。自分にとってのホームはすでに彼の隣りに変わっている。
「小野村、電話見つめてどうしちゃったわけ?」
やはり勝田は聞いていたらしい。電話を置いて惚けている真に間髪入れず話し掛けてくる。
「いや・・・この二ヶ月、めまぐるしく色んなことが変わったなと思って。感慨に耽ってました。」
「あ、そう。でも聞いてる限りだと、良いスタート切れそうな感じだよね。まぁ、存分にやってきてよ。」
「勝田さん、投げてますよね完全に。」
真が冗談交じりに言えば、勝田も軽く答えてくる。
「人足らないからね。部下が優秀だと助かるよ。」
勝田は任せられると踏んだ者には自由に仕事をさせる人間だ。任せようと思うくらいには信頼されている。この人のおかげで形振り構わず走ってこられたと思っている。
「頑張ってきます。」
「そうそう、頑張ってきて。」
シンガポールに旅立つ時もこうやって送り出してくれた。だから今度も必ず結果を出したい。しかも次の舞台には自分の勇姿を見せたい者が待っているのだから。
真は自分のデスクで一つ伸びをして、残り最後の引き継ぎのために、パソコンへと向かった。
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