*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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仕事が一区切りつくとデスク周りを整えるのが真の習慣だ。身の回りも頭もリセットして新しい仕事に挑む。
けれど帰り際の今、片付けに勤しんでいたのは、浮き沈みの激しい心を宥めるため。理央のことが絡むと心に波が立つ。冷静でいようと思っても落ち着かず、自分から飲みに誘ったくせに往生際悪く逃げそうになる自分を何とか繋ぎ止めていた。
「真さん、俺もう出られますけど、まだかかりそうですか?」
「あ、いや、大丈夫だよ。出ようか・・・」
理央に声を掛けられて心臓が跳ねる。日本から正式に異動が決まって、こちらに腰を据えてからでも良いのではないかと思い始めて、そんな自分を叱咤する。タイミングとしては今日はベストだ。そして彼に話をすると約束していたのだから、ちゃんと約束は守りたい。
自分と堂嶋の早とちりだったら、とどこかで怯えている自分もいる。けれど理央の眼差しを見れば見るほど、好意がないと疑う方が不自然な気がした。
「俺、あそこのバー、一度も行ったことありません。なんか敷居が高くて緊張しそうで・・・」
真が連れて行こうとしているのはクアラルンプールが誇るツインタワーKLCCを臨むことができるバーだった。座っているだけで様になりそうな風貌をしておいて、大人の雰囲気に呑まれそうになるところはしっかり若者なのだなと思ってしまう。
「真さん、もしかして・・・保留の話ですか?」
「そうだよ。」
顔にサッと緊張が走ったのを見て、彼がどんな事を考えているかと思うと、少し申し訳なくなった。マイナスな事を想像しているようで、先ほどまでの陽気さが全身から抜け落ちたのを感じ取る。何か声を掛けるべきかと思ったが、結局大したフォローもできないままバーのカウンターへ着いてしまう。真もあまり心の余裕がなかったのだ。
バーテンダーにオススメのカクテルを注文し、理央にもどうするのか尋ねる。
「何飲む?」
「えっと・・・真さんと一緒でいいです。」
「じゃあ、同じので。」
二人でしばらく無言のままバーテンダーの動きを目で追う。理央の緊張がこちらまで伝わってきて、盗み見るように理央を視界に入れた。
それぞれの前にカクテルが出てきて、早速グラスを手に取ろうとした理央の動きを手で制す。すると少し驚いたように真の方を見た。
「酒飲む前に話したい。いい?」
「・・・は、い。」
早く打ち始めた心臓の音をどうにか収めるために肺に溜まっていた空気をゆっくり吐き出す。そして、理央の反応を何一つ取り溢さないように彼の目を見据えてゆっくり口を開いた。
「理央、俺はね・・・おまえと恋愛がしたい。」
「ッ・・・」
一度目を瞬いて、呑み込めない言葉を何とか咀嚼しようと彼の頭がぐるぐる回っているのがよくわかった。そしてすぐに目を逸らして動揺し始めた理央に、ゆっくり諭すように言葉を選んで話し始める。
「六年前言えなかったことを、ちゃんとおまえに伝えたくなった。もう二度と後悔したくないから・・・。」
何か考え込むようにしていた理央がぽつりと言葉を漏らした。
「もしかして・・・気付いてました?」
宥めるように彼の握り拳に手を合わせる。ハッとしたように理央が合わせた手を見た。しかし日本人の客は見渡す限りいないし、どうせ他の客もこちらなど見てはいない。真は一種の開き直りで重ねた手をそのままに会話を続けた。
「気付いたのはこっちに来てからだよ。当時は知らなかった。だからおまえの気持ちに感化されたわけじゃない。」
「でも・・・真さん、結婚したじゃないですか。」
少し尖ったような声を向けてきたのは気の所為ではないだろう。
「前にも話したけど、相手に気持ちがあったわけじゃない。」
「俺が、どんな気持ちで・・・」
泣きそうな声で抗議してきた彼の言葉に胸が苦しくなる。
「悪かった・・・」
そのまま何も言わなくなった理央を覗き見ようとすると、そのままカウンターに額を付けて腕ごと丸まって伏せてしまった。
真はかける言葉を探したが、目の前で小さく肩を震わせ始めた理央を見て、どうしていいかわからなくなる。けれどどうしても心を繋げたくて、彼の髪に触れる。理央はビクリと肩を揺らしたが、嫌がるでもなくされるがままだった。
「理央・・・好き、なんだ。」
「ッ・・・」
「好きだよ・・・」
「・・・る、い。」
「え・・・?」
嗚咽の混じった掠れた声が、店内のサウンドに流されてしまう。
「ずるい・・・。真さんは、ずるい。」
「ああ、そうだな・・・」
「でも・・・」
小さな声を何とか拾おうと俯せたままの理央の顔に近付けるだけ近寄る。
「でも、それでも・・・真さんが、好き・・・」
「ああ。」
「真さんだけ知ってたなんて、ずるい・・・」
「・・・。」
一瞬言おうかどうか迷ったものの、後で事の顛末を知って黙っていたことを責められても困ると思い、白状する。
「堂嶋も知ってるけどな・・・」
「・・・えっ!?」
弱々しく伏せていた身を急に起こして、涙目のままこちらを驚いたように見る。
「なんでッ・・・」
「先に気付いたのは、堂嶋なんだよ。」
「ウソ・・・でしょ?」
「いや、ホント。」
理央が全身から力が抜けたように盛大な溜息をつく。今まで二人の間で張り詰めていた空気が一気に緩む。そして、ようやくまともに理央がこちらへ顔を向けた。
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