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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー15

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ツインタワー15

二月に入り、発売日に向けて、各方面の調整に奔走する。目標とする発売日は五月一日。試し刷りをして色味を見たり、実際食品をセットする機械での試運転をしたりと、やることは山のようにある。デザインで四苦八苦していられるのも、あと一週間が限度だろう。

上がってきたデザインの良さを損なわないように、盛り込まなければいけない文言をパズルのように配置していく。最初に盛り込む文言が決まっていれば難しくないのだが、作っていく過程で、どうしても増減が出てくるものなので、その帳尻合わせに時間がかかってしまう。しかしここが双方の踏ん張りどころなので、手抜かりは許されない。

「フォントのサイズは規定範囲内じゃないといけないから、これ以上ここは小さく出来ませんよね?」

「そうだな。後は言い回しでどれだけ削って収まり良くするか、だな。日本のように回りくどい表記じゃなくて良い気がするんだが、どう思う?」

主にラーマンとオットに向かって真は問い、それに応えるようにラーマンが先に口を開いた。

「バカールも言ってたんだけど、もっと端的な言い方で良い気がする。文章が長くて丁寧過ぎても、誰も読まないよ。」

アブバカールはラーマンと同郷で意気投合したらしく、すでに良い意味で砕けた関係だ。

「俺もそれには同意見。」

オットも頷いてくるので、日本から持参した注意書きの文言が、こちらの風土には合っていないということだろう。この段階で仕事を増やすのは心苦しいが、問題点が明確な以上、修正を躊躇するべきではない。

「ラーマンとオットで手分けして文言を作って貰えるか? 内容さえ損なわなければ、言い回しは任せる。英訳したものを後で寄越してくれ。」

「了解。」

ラーマンとオットは早速、文言作成に取り掛かるべくそれぞれのデスクに散っていく。

「理央、パッケージ素材の方はどうだ?」

「堂嶋さんにも相談して、日本と同じ仕入れ先にしました。やっぱり安全性を考えると、全部を冒険するのは危険過ぎるので。コストに関しては、中東情勢のこともあるから、先が読めないのが怖いんですけど。ただ、それに関しては、正直どこと組んでもあまり差がないので。堂嶋さんに頼んで、担当者に来てもらう手筈は整ってます。」

「わかった。それなら俺が出て行く必要はないな?」

「はい、大丈夫です。あの・・・」

何かを言おうとして言い淀んだ理央に、目で何かと問う。少し俯いて、意を決して彼が話し始めた言葉に少なからず面食らった。酒の席で勢いに任せて言ったことを蒸し返してきたからだ。

「このプロジェクトに一度区切りが付いたら、言いたい事があるって真さんが言うから、ずっと気になっちゃって・・・。もしかして、異動の話がなくなったのかな、とか。プロジェクトを軌道に乗せたら、すぐ日本に引き上げちゃうのかな、とか・・・。」

日本へ帰ってほしくないと全身で訴えてくる姿に、つい愛おしくなって彼の頭に手を出しかけて、咄嗟に肩を叩くにとどめた。

「いや、違うよ。むしろ俺、数年はこっちだから。全くその話とは関係ない。」

勝田の言い方からしても当分はマレーシアだと踏んでいる。安心させるためにそう言ったのに、理央はかえって青褪めた。

「もしかして・・・結婚する、とか?」

小声になったのは周りを配慮したからだろうか。しかしすぐ近くにいるラーマンやオットは日本語がほとんどわからないので、あまり関係ない。

押し黙った真に場違いな問いであることに気付いたのか、焦ってまたもや小声で謝ってきた。

「すみません・・・」

理央の声が少し震えて聞こえたのは気のせいではないだろう。明らかに動揺している理央を見て、自分も引きずられるように心が揺れそうになる。仕事中にどんどん脱線して険しい顔になっていく理央に、真は文字通り頭を抱えそうになった。

「どっちもハズレだ。そういう話ではないから。とにかく、それは保留。ほら、仕事に戻れ。」

あまり感情的にさせないよう、冷静に諭すような口調で告げ、自分のデスクへ戻らせる。理央の表情は相変わらず晴れていなかったが、見て見ぬ振りをして、真は無理やり書類と向き合った。

あんな顔をして、気持ちを隠しているつもりであることに驚く。そして堂嶋に指摘されるまで気付かなかった自分にも、また驚く。明らかに傷付いた顔の理央に、彼の思いの丈を見せつけられた気がした。

かつて自分が結婚の報告をした時も、一人遠くであんな顔をしていたのだろうかと思うと、堪らない気持ちになってしまう。つい職場であることを忘れて、一から全てを明かしたくなってしまった。

ただの決意表明のつもりが思わぬ波紋を呼んでしまい、真は言ったことを激しく後悔した。












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