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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワー12

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ツインタワー12

日本にいる勝田に進捗状況を報告して電話を切る。結局二十分ほど彼に捕まり、話のほとんどが年度末の数字合わせだった。

真は日本を出立する前に整理してきたのだが、一か月程度で数字の作れる仕事に心当たりはないかと突かれていた。確約はできないが、と前置きをして、日本から持ち出した名刺ファイルを片手に、片っ端から勝田にメモを取らせた。

「真さん、今、お時間大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。何かあったか?」

「はい。ちょっと困った事になってて・・・」

真が電話を置くのを待ち構えていたように理央がデスクにやってくる。申し訳なさそうな気配を全身で発しているところから見て、良い話ではないだろう。構えて聞くと、案の定良い話ではなかった。

「スケジュールがタイトで請け負えない、とのことなんです。ただ実際はいつもこの程度の納期なので、単に向こうが今オーバーフロー気味なだけなんだと思います。」

簡単に言えば、商品のパッケージをお願いしていた会社に仕事を断られたのだ。しかも真がこちらに来てから動き出した案件ではなく、以前からラフスケッチなどはお願いしていて仕事そのものは動いていた。もちろんそれに対する対価は支払われている。本格始動の段階になって急に断られたのだ。

「わかった。資料を回してくれ。依頼した段階から説明してくれるか?」

「はい。」

「この際、俺も担当者に会っておきたいからいい機会だ。」

理央が心底すまなそうな顔を向けてくる。しかし問題があった時こそ冷静に対処して舵取りをするのが真の仕事だ。

「ほら、そんな顔してないで、早く持ってこい。」

元気なく頷いて、席に戻っていく背中を見送る。どうしたものかと、真は頭を捻った。

理央から一通り話を聞いて思うところもあり、企画書を片手に受話器を取った。理央と直接やり取りをしていた担当者と話をすれば、拍子抜けするくらいあっさりと上長を連れて説明しに来ると言ってきた。

その時点で何かがおかしいと感じた真は、このデザイン事務所と今までやってきた仕事内容の資料を読み漁り、最終的には契約書と明細書の突き合わせをして首を捻った。そして堂嶋にも意見を求めて出した結論は、今までが異様に安い、ということだ。

既に滞りなく終わっている仕事は五件。今までトラブルは何もない。仕事は今まできちんとこなしてきてくれていて、一見問題がないように見える。しかし、それがある意味問題のように思えた。すでに動き始めている企画の突然放棄。

明細書を見ると、作業代が細分化されていた。企画を練る段階でのラフスケッチ代、データ作成代、印刷所へデータを入稿するための手数料に変換料・・・。

企画が頓挫するケースがあることを考えると、細分化されているのは助かる。コストが最小限で済むからだ。しかし親切なようで、ここに落とし穴がある。

前回までは依頼から納期まで短期間だったので、納品までの全工程を一括契約していた。しかし今回、企画自体は早く動いていたものの、認証が下りるまで時間を要していた商品だったので、一旦案を寝かせていたのだ。契約に関してもそこで途切れている。

「今まで取れなかった分を、取ろうってことだろうな・・・」

成長著しいこの国で、人経費は昔ほど安くはない。堂嶋に意見を求めたところ、やはりそういう見解だった。

信頼を得るまでは安い作成代で仕事をし、金を取れると踏んだ段階で作成料を高く取る。このデザインだと時間がかかるとか、高度なスキルが必要だとか、言い方はいくらでもあるだろう。しかも厄介なことにこの段階で高い費用を提示するのは、今回の場合、全く契約違反ではない。

真が考えるに、高額な費用を吹っかけられることはないだろうと踏んでいる。恐らくこちらが出せるギリギリのラインを提示してくる。

しかし真は、万が一自分の読み通りの展開が待っていた場合、契約する気はなかった。信頼関係を築くに相応しい相手ではないと思うからだ。

こういうケースはここに限ったことではない。日本でも起こり得ることだ。新しい取引先を探すのは骨が折れるが、理央にとっては良い勉強となるだろう。

部下以上の想い入れがあっても、この立場で対峙する時、彼を甘やかすつもりは一切ない。それは男としてのプライドでもある。中途半端な態度を取って、後輩としての彼を一社会人としてダメにしたくない。

「理央、ちょっと来い。」

緊張の走った顔を向けてきた彼に盛大な溜息を零したくなったが、次の瞬間には心を律した。

人目で厳しく言っても折れるような奴ではないが、内容が内容だけに、二人になれる別室を選んだ。

お人好しなのは全く悪くない。けれどビジネスの世界では、人の足下を見ている人間が山のようにいることを知らなければならない。淡々と理央の見えていない現実を話せば、少し気落ちしたようではあったが意外な言葉が返ってきた。

「俺って今まで、人に恵まれてたんですね。だってそういう事を考えなくても、上手くやってこれちゃったんですから。」

「・・・そうかもな。」

けれど運が良かったのは、その運を引き寄せられるだけの理央の人柄があったからだろう、と真は内心思う。感情的にならず、冷静に事実を受け止めていることに、少し安堵もした。

「まだそうと決まっているわけじゃないけどな。ただ、俺の経験則ではその可能性が高い。それで、だ。」

「他のところ、ってことですよね?」

「そうだ。」

理央に頷いて、彼の前に一枚名刺と、あるホームページの画面をプリントアウトした紙を差し出す。彼とこの部屋へ来る前に用意しておいたものだ。

「仕事を受けてくれるかどうかは相性もあるし確証があるわけじゃないが、手持ちのカードは俺としてはこれだけだ。候補の一つにしてくれ。今週中に目処を付けてほしい。出来るな?」

「はい。ありがとうございます。」

差し出された物を見て少し驚いた顔をした彼だったが、すぐに受け取って真に頭を下げた。

真が渡したのは、堂嶋が連れて行ってくれたクラブで出会った常連客の名刺。そして彼から教えてもらったイラストレーターの情報だった。

現地のイラストレーターが感じる日本食をデザインとして起こしてくれれば、日本とはまた一味違ったデザインが生まれるだろうし、彼らの感性に合うものが提案できるのではないかと思ったのだ。気をてらった物を作る気はない。日常の中に当たり前に存在する一品を作っていきたい。そのための一つの挑戦でもあった。

新たな付き合いのできるデザイン事務所探しは理央に任せ、真は来客の知らせに応えて席を立った。













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