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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅡ-8

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ツインタワーⅡ-8

日本行きの飛行機の中で舟を漕いでいた自分の手に、そっと彼の手が重ねられる。誰も見てはいないと思うけれど、妙にドキドキして、あっという間に目が冴えた。

小野村に問うような視線を投げると、悪戯っ子のように彼が笑う。その瞳の強さに鼓動が跳ねて、火照ってしまう頬を宥めるのは難しかった。

二人とも日本に家はない。小野村は実家があるが、帰らないの一点張りだった。両親から戻ってくるように言われたらしいのだが、彼は理央と過ごす選択をした。呼ばれているのなら帰った方が良いのではと思ったが、あえて理央の方から口出しはしなかった。

彼とのんびりできるチャンスなどなかなかないのだから、自らそのチャンスを逃すような真似はしない。彼の両親には心の中で謝っておいた。

今回の帰国では、出張なら絶対選ばないようなハイクラスなホテルを選んだ。社会人の男が二人、正月に泊まり込むなんて意味深だから、接客を期待する意味でもその投資は惜しまなかった。

飛行機から降り立つと、日本は完全に真冬だった。暖冬だなんて言われているらしいが、マレーシアの暑さに慣れてしまって、日本の寒さが身に沁みる。クローゼットの肥やしと化していたコートを引っ張り出してきて正解だ。カビが生えていなくて幸いだった。

日本に帰ってきても、帰ってきたという実感は薄い。それもそのはず、理央にとってはこの国は故郷と呼べる場所ではない。生まれ育ったのはアメリカだし、両親は今もアメリカにいる。日本で過ごしたのは、大学時代と社会人生活をスタートしてからのごく一部の期間だ。場所も転々としていたし、日々の生活に追われていて、土地に愛着を抱けるような生活はしていなかった。

完全に旅行気分で小野村の後をついて歩く。並んで歩くのも好きだけれど、この人の背中を見て歩くのも好きだ。

「真さん、ここ?」

「そう。ここ。」

見上げたタワーホテルに気後れする。正直、呆気に取られた。今まで用もなかった類いのホテルだ。

「え? ここ?」

「自分で予約したんだろ?」

確かに予約を入れたのは自分だったが、写真で見るよりも迫力があって困る。出入りする人たちも、明らかに金回りの良さそうな人種だ。

「これなら快適な正月になりそうだな。」

楽しげな口調、茶目っ気たっぷりの視線に射止められて、言葉に詰まる。張り切り過ぎた胸の内を暴かれたような恥ずかしさだ。

「そういうつもりじゃなくてッ!」

「なんだ。おまえも浮かれてたんだ、って思って嬉しかったのに。」

拗ねたような口振りとは裏腹に、小野村の目は笑っている。

「真さん、面白がってるでしょ。」

「飽きようがないよ。おまえといると。」

一緒にいると楽しいのだと、頭は良い方に意味を変換する。揶揄いの言葉にすら嬉しくなるって、どういうことなんだろう。浮かれて頭が沸いているとしか思えない。

小野村の言葉には応えず、着替えだけを詰め込んだ小さなトランクを片手に、一人ホテルの入り口へと歩き出す。

背後で小さく笑う声が聞こえる。抗議の意味も込めてちらりと振り向けば、恋人の顔をした小野村の姿が視界に入ってくる。

二人きりで過ごす、初めての休暇らしい休暇。浮かれているのはどちらも同じだ。ここまで来たら、楽しむだけ楽しみ倒してやると意気込んで、回転扉の中へ飛び込んだ。

 







 


ウェルカムドリンクを口に付けて、すっかり寛いでいる相方。足を組んでボーイに手渡された新聞を優雅に広げて読み耽っている。

理央はスーツケースから洋服を一通り開けて、ハンガーへ吊るしていた。今回二人ともスーツを一組ずつ持ち込んでいる。ホテル内にはいくつかレストランがあるが、ディナーはドレスコードのあるレストランを連日予約したのだ。

気合いを入れ過ぎかとも思ったが、たまの贅沢。ちょっと気取ってみるのも一興だ。久々の高揚感に浸りながら、バスルームを覗いて見たり、ベッドに転がってみる。そわそわと落ち着きなく室内を歩き回る理央に、小野村が見兼ねて声を掛けてくる。

「理央、そろそろ落ち着いたらどうだ。紅茶も冷めるよ。」

ダイブしていたベッドから、小野村の視線を追い掛けて、目をしっかり合わせた。非現実的な状況に興奮が覚めないのだ。嬉しくて堪らなくて、自分でもどうしたら落ち着けるのかがわからない。

「だって、嬉しくて。真さんは違う?」

この興奮覚めやらぬ心境を共有して欲しくて、ひんやりとしたシーツに頬を付けたまま尋ねる。

「まったく・・・。」

呆れた声で返してきたものの、新聞をローテーブルに畳み置き、ゆっくりベッドの方へ近付いてくる。微笑んで理央の頭を撫でた後、小野村もベッドの縁に腰を下ろした。

「着いて早々か?」

猫を撫でるように顎に触れてくる。二人でクスクスと笑い合って、理央は小野村の手を引いた。

理央の上に覆い被さるようなかたちになった小野村はさして驚いた様子でもない。理央の頬を両手で包み込んで、唇を重ねてくる。ここまでリラックスした小野村は珍しいかもしれない。

ゆっくり体重を掛けてきた小野村の重みを心地良い気分で受け止める。甘い溜息を耳元で聞いて、心が震えた。嬉しい気持ちが高じると胸が苦しくなるのだと知った。

理央が小野村の背に腕を回したのを合図に、二人は深い口付けに溺れていった。











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