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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅡ-5

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ツインタワーⅡ-5

小野村、勝田、理央の取り合わせで酒を飲むのは初めてだった。勝田がいる時は大人数の時が多いので、ここまで距離が近いのも珍しい。

「この国も変わったよね。今となっては現場からすっかり離れちゃって、つまらないよ。書類に判子押してばっかり・・・。支店長で俺が来るってのはどう?」

「支店長になっても判子生活が待ってますよ。」

「見張り役いないじゃない、こっち。営業し放題だよ。」

「俺が見張ってます。本社に逐一報告させていただきますから。」

勝田が来る前、面倒だと愚痴を零していた小野村だったが、飲みに来る分には満更でもなさそうだった。仕事に関しては鬼のような要求をしてくる勝田に辟易していても、蓋を開けてみると勝田を慕っているのが窺える。

勝田と小野村の小気味良いトークに相槌を打ちながら、彼らの間にある信頼関係が少しばかり羨ましく、嫉妬してしまう。

「島津はさぁ。もうちょっと捻りが欲しいよねぇ。掴みは良いんだから、狡くなってくれないと。」

「正面から当たりに行ってばっかりだと、足下も見られるしな。でも、久々に仕事して、ちゃんと成長はしてたから安心しましたよ。」

「ヒヨコの時しか知らないもんね、小野村。」

二人の話題がいつの間にか自分の事に移っていて、肩を落とす。残念な自分ばかり話題に上がっていても嬉しくない。この二人にも新人だった頃があるはずだが、想像すらできなくて、自分だけが出来損ないに思える。

「俺の話なんかして、楽しいですか?」

ちょっと拗ねて言えば、勝田が愉快そうに笑う。

「部下を弄り倒すのが、俺の仕事。上司の特権。」

勝ち誇ったように言われて、返す言葉もない。

「理央、拗ねるとこの人の思う壺だぞ。」

そう言う小野村も何だか楽しげで、自分だけ取り残された気分になる。成るようになれと半ば自棄になって、グラスいっぱいのビールと対面しながら、二人の会話を聞いた。

 







 

 

お開き間近になり、小野村が手洗いに席を立つ。その隙に乗じるように、突然勝田が身を乗り出して顔を覗き込んできたので驚いて戸惑う。

「島津、そんな怯えなくたって、取って喰ったりしないよ。」

勝田が面白いものを見るように微笑んでくるので、自分でも意識しない内に冷や汗が出る。

「そういう顔するから揶揄いたくなるんじゃない。あの手の店に出入りしてたわりにはお堅いよねぇ、島津。」

頬を撫でられそうになって、咄嗟に身を引く。お互い知らぬ存ぜぬで通すものかとばかり思っていたのに、その壁を突然切り崩されて狼狽えてしまう。

「その様子じゃ、恋人でもいるのかな?」

理央の頬に届かなかった手を優雅に下ろして、もう片方の手でグラスを傾ける。微笑んでくる顔が怖くて身動きできずにいると、勝田が心底可笑しそうに笑う。

「心配しなくても、部下に手を出す趣味はないんだ。」

「・・・。」

理央が学生だった当時、勝田は相当遊んでいると専らの噂だった。しかしその話も十年ほど前の話だ。しかも同じ会社の人間に手なんか出して問題でも起こしていたら、営業部長になどなっていないだろう。

勝田は目立って男前なわけではないが、黙っていれば品のある優男だ。自分から声を掛けにいくタイプではなく、糸を張って罠にかかるのをジッと構えているタイプ。

若い頃はさそがしモテただろうなと思わせるだけの雰囲気はあるし、事実、出入りしていた店では彼に声を掛ける人間は数多いた。

何をやっても華がある。四十後半の男に使う言葉ではないかもしれないが、勝田にはその言葉が様になってしまうだけの雅さがあった。

会話が途切れて気まずい思いをしているのは理央の方だけだ。勝田は理央を眺めながら、楽しそうに微笑んでグラスに口を付けている。上手いことが何一つ思い浮かばないまま、小野村が手洗いから戻ってきてしまう。

「二人して黙って、どうしたんですか?」

「うん? ちょっと島津を揶揄っててね。真に受けちゃって、島津が拗ねてるんだ。いいよね、小野村。こんな犬っころみたいな部下がいて。羨ましいよ。うちの部署にも一匹こういうの、欲しいね。」

「犬っころ、って・・・ペットじゃないんですから・・・。本気でペットにしかねないから、冗談に聞こえませんよ。」

「そう?」

呆れたように勝田へと言い返す小野村を心から尊敬する。勝田相手にそんな風に切り返すのは、自分は一生かかっても無理だろう。

小野村は今、理央の前で完全なる上司の顔だ。恋人だなんて、誰も想像しないだろう。勝田も全く気付いた様子はないし、彼と交わした言葉の中にも、それを疑うような台詞はなかった。

いつもなら小野村のポーカーフェイスに少し寂しさを覚えるのだけど、今夜ばかりは救われた思いがした。







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