堂嶋からサシで呑みに誘われて、騒がしいバーへと連れ出される。やっぱり彼と好みを共有する事は一生叶いそうにはないと、喧騒の中ビールを煽った。
仕事と小野村の間で揺れている自分を見透かされたかと思い、内心穏やかではなかったが、彼から切り出された話は全く別の話だった。
「勝田さんが明後日来るだろ?」
「そうですね。」
「あの人、マレーシアの経験あるって知ってるか?」
「いや。知りませんでした。シンガポールが長かったとは聞いてますけど。」
「マレーシアも確か・・・五年、経験あんだよ。せっかくだから苦労話でも聞いてこいよ。」
「そう、ですね・・・。」
勝田相手だと、どうしても気乗りしない。営業マンとしては本当に優秀な人だし、尊敬しているのだが、どうにも彼との関係は詰めずらいのだ。
「おまえ結構苦手だろ。」
「あぁ・・・はい。」
見透かされて、渋々頷く。直球過ぎる自分と、のらりくらりを繰り返す勝田は、絶望的に相性が悪い。日本で直接顔を合わせていた時は可愛がってもらっていたが、苦手意識はどうにもならなかった。
勝田を避け気味なのには性格云々の他にも、もう一つ理由がある。
理央が大学時代から通っていたバーは、ゲイバーと銘打っているわけではないのだが、その手のマイノリティがよく集まる場所だった。勝田もそのバーの常連で、理央は入社する前から彼と顔見知りだったのだ。
上司として目の前に現れた時は驚愕したなんてものじゃない。しかし勝田は初めて会ったような顔をしてきたので、以来彼の出方を気にしつつ接している。だから妙に神経を使ってしまう。
そして、勝田は毎夜相手を変えては寝ることを繰り返している遊び人だと風の噂で聞いていた。だからあまり良い印象もない。
「タッチするのは小野村がほとんどだけど、ちゃんとおまえも相手しろよ。」
「わかってます。苦手だからって逃げ回るほど子どもじゃないですよ。」
「ご機嫌良いんだよなぁ、気味が悪いくらい。」
勝田の企み顔を思い浮かべて、ゾッとする。年始から相当忙しくなるかもしれない。自分のノルマをこなすのだって一杯いっぱいなのに、これ以上仕事が降ってきたらどうしたらいいのだろう。
「でも、やるしかないよなぁ・・・」
「そりゃ、企業戦士だし。」
「あっさり言わないでよ、堂嶋さん・・・」
話を振ってきた堂嶋本人は、至って冷静だ。横目で彼が見定めるような視線を寄越す。
「どうしたよ、島津。シケた面してんな。」
訝しげに細められたので、やっぱり心の機微は悟られている気がした。小野村といい、堂嶋といい、この人たちの洞察力には敵わない。年齢以上の差をこういうところで感じてしまう。
「自分がダメ過ぎて、落ち込んでるんです。」
「変な意地張ってねぇで、そこは甘えとけよ、小野村に。」
関係を知られているので今さらだが、あからさまに口にされると身の置き場に困る。指摘通り問題をずばり言い当てられている事実も悔しい。
堂嶋を一瞥して、残りのビールを体内に流し込んだ。
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