心の着地点を見つけられると、仕事も私生活もスムーズに回り始める。
さらに数字を積み上げるため細々した仕事もこなしていく。人に恵まれるのは幸せだ。見守って、時に手を差し伸べてくれる仲間がいるから仕事ができる。
神崎が紹介してくれた現地のフードコーディネーターも大変優秀な人だった。現地採用の優位を存分に活かし、現地の人たちが慣れ親しんでいる食材を使った献立を次々に上げてくれている。
コストを抑えるためにメニューは一つで日替わりにした。食のトータルコーディネートを我が社で提案するのは、海外においては初の試みだったが、何とか始動の道筋を立てることができた。
理央に残された仕事は、実際それが円滑に回るようにするためバックアップをすることだ。日本の本社にいる営業部長の勝田にも連絡を取り、ちょっかいを出されながらも事務作業に追われた。
『島津、張り切ってるねぇ。』
「踏ん張りどころですし。」
『小野村に可愛がられてるってことかなぁ・・・』
「発破かけられてますよ。年度末ですし。」
普通に切り返したと思うのだが、勝田が電話先で黙り込む。その後クスクスと笑われて、何だろうと構えていると、彼からの言葉に絶句する。
『まぁそれが、上司としてのプレッシャーが功を成してるのか、恋人としての叱咤激励の効果なのかは、判断に迷うとこだよねぇ。』
「!?」
年末会った時には何も言っていなかったではないか。もしかして、とっくに気付かれていたとか。
もしそうなら、隠せているつもりで涼しい顔で会っていた自分は相当間抜けだ。文字通り穴があったら入りたい。
堂嶋の時といい、勝田の事といい、自分は全部顔に出ているのだろうか。
「・・・仰ってる意味が、良くわかりません・・・」
意味のない抵抗を試みてみるものの、無言の後の言い訳などに勝田が騙されてくれるわけもない。
『島津、切り返すの遅過ぎるよ。まだまだだなぁ。もっと図太く生きないと。』
勝田ほどの度胸がつく日が自分に来るとは到底思えない。電話口で勝田は笑っているだけだ。
「あの・・・」
『あぁ、ごめん、ごめん。データは無事受け取ってるよ。最後まで手抜かりなく、よろしく。じゃあ。』
人の事を笑うだけ笑って呆気なく切れた電話に脱力する。折角やる気に満ちていたのに、その集中力を全て勝田に削ぎ落とされた気分だ。
冷静になりたくてもなれない。勝田に筒抜けだった事実と当分は向き合いたくなかった。
理央は書類に手を伸ばし、デスクにしがみ付いて資料作成に没頭することにした。
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朝霧とおる