*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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フロアに電話が頻繁に鳴り響く午後、理央の元にも一件の電話がやってきた。それも待ち望んでいた、例の日系企業からの電話だった。
「島津くん、三番にサニーの柳沢さんからお電話入ってます。」
「ありがとうございます。」
田浦から引き継がれ、無駄に意気込みそうになるのを何とか落ち着かせて応答する。
色好い返事、とまではいかなかったが、もう一度話を聞いて検討したいという前向きな意向だった。また懸念材料も提示して手の内を見せてきたので、手応えを感じる。明日にでもどうかと早速日程調整を求められ、すぐに了承の旨を伝えた。
受話器を静かに置いて、机の下で小さくガッツポーズをする。準備万端の書類を引っ張り出して、急いで客側の懸案事項を洗い出す作業に入った。今日明日、時間に限りはあるが、限られた時間で最大限パフォーマンスをしなければ、という緊張感に心が躍る。
「理央。電話、例の会社だよな?」
「はい。頑張って取ってきます。」
「頼むよ。」
肩を叩いた小野村の手がじわりと胸に温かさを届ける。好きな人に励まされて嬉しくないはずがない。その気持ちを無理に否定することなどないのだ。
仕事とプライベート、強引に線引きをしようとしていたが、自分には影響し合うくらいが丁度良いのかもしれない。良い影響なら誰にも文句は言われないだろう。そんなご都合主義な自分に内心苦笑いしながらデスクに向き直る。惚れた弱みを強みにするくらいの自分にいつかなってやろう、と心に決めて書類の手直しに取り掛かった。
決まる時は呆気なく決まってしまうものだ。
自分ではもう一押しをするつもりで乗り込んだが、説明が一通り終わった段階で先方から契約の旨を伝えられた。
今まで説明の場に出て来なかった責任者にも会うことが叶い、驚くほどのトントン拍子。一気に駆け上がった階段に少し怖いくらいの高揚感がある。
小野村に報告したところでようやく現実味を帯びて、収まりの良い感覚に着地することができた。
「明日にでも、っていうことは、実際は随分前から本決まりだった、ってことだろうな。」
「でもサインを貰うまでは何とも・・・。」
「そうだな。そういうもんだ。最後、バシッとシメてこい。むしろここからがスタートだ。」
「はい」
飛び抜けた規模ではないが、自分至上最高額の契約なので感動してしまう。小野村のデスクの前で落ち着かない気分で立っている自分は滑稽だけど、良い報告なのだからちゃんと胸は張っていたい。
明日は小野村に契約が成立したことを正式に報告できるかもしれない。これで今年度の予算も達成するし、マレーシア支店としても結果を社内に示せるのだ。気持ちが昂ぶらないわけがない。
「肝心な時にシマらないと格好も付かないから、契約書類揃えたら一度見せに来い。」
「はい」
今回は社外の人間も絡む仕事なので契約書類が膨大だ。リストを作り、二人の人間でダブルチェックする。契約は勢いというものが少なからずある。スタートで挫けないことは重要だ。新人でもできる準備を疎かにせず徹底的にやるのが、小野村のルール。
この一年、何度もそれを懐かしいと思った。小野村と一緒に仕事をしているのだな、という実感が湧いて嬉しくなる。明日無事にサインが貰えれば、自分の仕事は一区切りになる。後は現場に託すための準備とバックアップに随時移行していく。
ここで、小野村と仕事をすることが楽しい。自分の成長を見せられることもまた嬉しい。いつかこの人をあっと言わせられる日はやってくるだろうか。そんな日を想像して頑張るのも、また一興かもしれない。
契約が取れた時に感じる独特の浮遊感に浸りながら、理央は嬉々としてリストを目で追い、契約書類を整え始めた。
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