堂嶋の外回りに同行した帰り道、話が纏まった安堵感はあったものの手放しで喜べる気分ではなかった。この後帰社したら、今日の内容を書類に起こし、小野村のチェックを受けなければならない。むしろその方が自分にとっては難関なのだ。
自信があるなしではない。中途半端にやっているつもりはないし、一つずつ出来ることは積み上げてきている。
けれど自分の仕事が彼の目に入るのは、どんなに頑張って成果が出ていても緊張する。この感覚ばかりはどうしようもなかった。
期待、不安、そして評価が出る時の高揚感。自分を地の底まで落ち込ませるのも、天にも昇る気持ちにさせるのも小野村しかいない。
刺激であり、ストレスでもある。要は振り回されっぱなしなのだ。彼の仕草に、言葉に反応して走り回る自分も、最後にきちんと結果が出せればそれで良いはず。全ては結果次第だ。
「浮き沈み激しいよなぁ、おまえ。見てるこっちが疲れる。」
「堂嶋さんが疲れるんですか?」
「こっちも振り回されて、おまえのアフターケアしてんだから、疲れるに決まってんだろ。」
「・・・すみません。」
「おまえが素直に謝ってくるとか、気味悪いな。変なもんでも食ったか?」
真面目に謝るのは照れ臭いのだが、仕事にプライベートな感情を持ち込んで迷惑をかけた年末年始。自分の方に明らかな落ち度がある。
「これでも反省してるんです。真さんとのこと・・・上手く線引きができなくて、堂嶋さんには気を使わせたし・・・」
「おまえ、反省って言葉、知ってたんだな。」
「知ってます! 反省してますよ・・・」
反省はしている。でもどこを改善すれば良いのかは、未だによくわからないのも事実だった。気持ちをコントロールするのは難しい。小野村との間に、一切プライベートな感情を持ち込まないのも難しかった。怯んで一歩出ることを躊躇う自分が、必ず心のどこかに潜んでいるようになった。
「俺、成長できてないのかな・・・」
「結局また落ち込んでるのか。忙しいな。」
「どうしたって比べちゃいます。」
「何を?」
小野村や堂嶋は自分と同じ歳の頃、こんなに幼稚な部分はあったのかと。小野村とは離れていたから当時の彼を伺い知ることはできないけれど、堂嶋のことは知っている。堂嶋はもっと大人に見えた。どっしり構えて後輩を引っ張っていく、そんな人だ。そんな堂嶋が、昔から小野村のことを一目置いていたのを知っている。
不安になる。自分だけ置いていかれているような、いつまでも出来損ないのような気がしてしまう。それを怖いと思ってしまう自分がいる。
「比べちゃって。真さんとか、堂嶋さんとかと・・・」
「バカだな、おまえ。」
「そうですよね・・・」
「俺はずっとおまえの先を行かなきゃならないと思ってる。男として負けたくないしな。小野村も同じだと思うぞ。絶対敵わないな、って思われ続けてこそ、おまえの先輩でもあり上司なんだよ。」
「・・・。」
「おまえに勝てると思われたら、もう成長できなくなった、ってサインだろ。おまえに敵わなかったと言わせたいね、退職するまで。」
堂嶋のバイタリティーに圧倒されている自分がいる。これは堂嶋からの宣戦布告。いつでも掛かって来い、いつだっておまえの上に立ってやるから、ということだ。
自分のことをいつも広い懐で受け止めてくれる小野村も同じなんだろうか。静かな闘志を燃やして、自分の見えないところで闘っているのだろうか。
小野村や堂嶋が足掻きながら積み重ねてきたように、自分に出来ることを一つずつ組み立てていけば良い。
自分は自分以外にはなれない。弱くて不安定な自分とも試行錯誤しながら付き合っていくしかないのだ。そう思えたら少し心持ちが軽くなった。
「二人とも、やっぱり凄いな・・・」
「ん?」
呟くように口から溢れた言葉は堂嶋の耳には届かなかった。聞き返してきた堂嶋に笑顔で首を横へ振って、軽い足取りでオフィスのあるビルを目指した。
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朝霧とおる