二人で並んで帰るのも、ご飯を買い込んでどちらかの部屋で一緒に食べるのも、もはや日常となった。
仕事での至らなさが頭の隅に残っていて、何となく浮かない気分になる。せっかく二人で過ごしているのに、情けなさでいっぱいなのだ。
「理央?」
焼き鳥片手に食が進んでいない理央を、小野村は心配そうに覗き込んでくる。小野村は悪くない。仕事とプライベートを分けられない自分に原因があるのだ。
「理央。どうした?」
半分も減っていない串を理央から奪い去って、小野村は皿へと戻した。身動きしない理央に代わって、小野村が濡れたタオルで手を拭ってくれた。
「真さんの・・・恋人なのか部下なのか、線引きが上手くできなくて・・・」
辛い。それが正直な気持ちだったけれど、口にしてしまうのは躊躇われて語尾を濁す。けれど小野村には悟られてしまったようだった。
「おまえは俺の恋人でもあるし、部下でもある。部下として俺の前にいる時は、ダメな姿を晒す事だって沢山ある。そうだろ?」
諭すような優しい口調につられて頷く。
「恥ずかしい気持ちもわかる。だけどそれを必要以上に気にしても、何の解決にもならない。」
「・・・はい。」
「今のおまえには、俺の存在が負担になってるんじゃないか?」
「そんなこと・・・」
「ない、って言い切れるか?」
言い切れない。好きだから格好良い自分でいたい。上手くこなしたい。でも必要のないプレッシャーを自分にかけているのも事実だ。
小野村は呆れるだろうか。仕事とプライベートをちゃんと分けて考えられない自分に。
「・・・別れようってこと?」
「そうじゃないよ。」
肯定されたらどうしよう、と悪い考えが一瞬駆け巡ったけれど、小野村はすぐに否定してくれた。
「どうしたらおまえの中でちゃんと折り合いが付くのか、二人で考えよう、理央。最悪解決しなくたって、一人でうじうじ悩むより、少しは気持ちが楽になるだろう? それとも、俺にそういうところを見せるのも怖いってことか?」
やっぱりこの人は凄い。自分のずっと前を見ているのに、こんなダメな自分を取り溢さないで手を差し伸べてくれるんだから。マメな人なのだ。面倒な自分なんか放っておけばいいのに、見捨てないでくれる。
「真さん・・・」
だから少しだけ勇気を振り絞って、本音を言う。
「中途半端な自分が・・・辛い・・・。」
「そっか。」
落ち込んでる恋人を見て満足そうだなんて、納得がいかない。けれど、そっと抱き締められて彼の腕に包まれると、彼の優しさに寄り掛かる心地良さに肩の力が抜ける。この温もりに浸りたい自分の気持ちを誤魔化す事はできず、彼の腕の中で目を閉じた。
「悩んで落ち込んでるおまえも可愛いな。」
こっちは必死なのに悪趣味だなと思う。けれど感慨深げに囁かれれば、その言葉に愛情すら感じてしまい、小野村の腕を振り払う気にはなれなかった。
自分の弱さに幻滅しつつも、小野村の差し伸べる手に縋ってしまう。これを負のループだと思う事自体が考え過ぎなのかもしれない。小野村は職場では上司だし、人生の先輩でもあるのだから、同じ土俵に立とうと思う事自体に無理があるのかもしれない。けれど男として並び立ちたいと思ってしまう闘争心も捨て切れない。
彼の腕の中に収まって考える。こだわりを捨てるかどうかという問題でもない気がする。未熟な自分を受け入れられないことが問題なのかもしれない。
小野村のシャツにしがみ付くと、彼はさらに強く抱き返してくれた。
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