年末のこの時期、営業事務の田浦は大忙しだ。本社とのパイプ役を一手に引き受け、マレーシア支社の営業たちのサポートにも追われる。午後からは本社営業に捕まりつつ、支社の事務作業もこなしていた。
ようやく電話が途切れたところで彼女が小野村のところへ向かう。自分だって用さえあれば彼のところへ飛んでいきたいのに、無理やり用事を作るわけにもいかない。
田浦が小野村へ本社からの伝言を報告している。小野村が溜息をついて苦笑した後、田浦に指示出ししているのを目の端に入れた。何でも楽しそうに見えるのはどう考えても自分の色眼鏡なのだが、側に寄れる田浦が羨ましくて仕方なかった。
「あぁ、俺、嫉妬深いのかなぁ・・・」
「そうだなぁ。っておまえ、心の声がだだ漏れだぞ、島津。」
心の中で言ったはずの言葉に頭上から返事が返ってきて飛び上がりそうになる。理央の背後には堂嶋が立っていた。
「ビックリするじゃないですかッ!」
「こんな忙しい時期に、頭ん中、花畑にしてんじゃねぇよ。報告書進んでんのか?」
「勝田さんのところへ辿り着く前に、真さんから差し戻されました・・・。」
「尻込みし過ぎなんだよ。」
堂嶋の言う通りなので、ぐうの音も出ない。問題は今年の実績というより、今年度、つまり三月までの確定していない部分がどうか、という事なのだ。先行きのわからない部分を、どれだけ取りに行けるか。目標を掲げる以上はクリアしたい。けれど小野村の前ではちゃんと実績を見せたくて、かえって足が竦む。
仕事と恋愛は必ずしも直結するわけではないけれど、好きだから認められたい。その想いが仕事の邪魔をしているのだ。正直、あまり良い傾向ではない。自分で何とか乗り越えたいけれど、悪足掻きが続いている。この一週間ほどスランプだ。
「島津。ここの数字、もっとどうにかなるんじゃねぇの?」
「うーん・・・。やっぱ、そこか・・・。」
「ほら、小野村空いたぞ。行ってこい。」
「・・・はい。」
日系の企業で一つ、マレーシアに展開を図ろうとしている企業がある。現地で雇う従業員数が多い事が見込まれていて、狙い目としては正しい。しかし九月に訪問した際は、まだ具体的な規模が曖昧で、売り込みの段階で止まっていた。決まれば大きい。しかし外しても大きいのだ。理央はそのハイリスク、ハイリターンな状況に、数字として組む事を躊躇っていた。
せっかく小野村のところへ行く用事ができたものの、あまり気は進まない。
「真さん、少し良いですか?」
「堂嶋に尻叩かれたのか?」
田浦と話していたはずなのに、視界にきっちり理央と堂嶋の姿を捉えていたらしい。この人はやっぱり周りをよく見ている上司だな、と思う。
「入れる気になった?」
「・・・はい。」
リストを差し出す前に微笑まれて、頷くより他ない。しかし自分でもわかっていた事なので、異論があるわけではない。
「本社に上げる報告書はそれでおしまいで良いから、後はダメだった時の保険だな。結構危ない橋ではあるから。年始になるまでの残りの期間で、他にもあたり付けて。そこまで見るから。」
簡単に言ってくれる。残り二週間を切っている状況なのだ。気が遠くなりかけるが、自分だって後が控えているものがあれば心強いのは確かなのだ。
「あと、ココと・・・あぁ、コレもだな。言い回し直せ。ちょっと貸してみ?」
この期に及んで日本語の手直しまで受けることになり、目の前が暗くなる。
この人は今、完全に上司の顔なのだ。別に職場で色っぽい事を期待しているわけではない。しかし格好付けられる状況ですらないことに、理央は項垂れるしかなかった。
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あけましておめでとうございます。
本年度もよろしくお願いいたします。
アンケートに早速ご参加いただきまして、
感謝感謝でございます!
2016年1月15日まで引き続き投票受け付けておりますので、
よろしくお願いいたします。
そしてコメント下さった、rex様、
有難く拝読させていただきました!!
アンケートページにコメント投稿欄があることに気付いておらず(笑)
アンケート結果を覗きに行って、
コメントが届いていてビックリでした!!
ありがとうございます。
管理も碌にできていない不甲斐ない朝霧ですが、
今後ともよろしくお願いいたします。
さて、真さんと理央くんには、
仕事も恋も、がっつり取り組んでいただこうと思っています。
また今年もお付き合いいただければ幸いです。
皆様にとってこの一年が素敵な年になりますように!!
管理人:朝霧とおる
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朝霧とおる
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