*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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思っていたより昨日のことを引き摺らずにいられたのは、単に資料集めに苦戦した、ということもある。悩んでいる時ほど忙しいに限る。そっちに思考を取られないで済むからだ。
「堂嶋さん、ちょっとお時間いいですか?」
「いいよ。お、ようやく浮上した顔だな。」
苦笑いを返したが、堂嶋はそれ以上、特に追及してこなかった。
「食材のコストでわからないところがあって・・・ここ、なんですけど。」
「ああ、季節感ってことか。雨季と乾季で仕入れ値も変わってくるからな。直接農家と交渉して仕入れ値を確約するっていうのは・・・難しいか。日本ほど安定もしてないからなぁ。」
「常夏のわりには、ってとこなんですよね・・・でも、直接話してます。やってみないことには、わからないし。ありがとうございます。」
手を振って見送られて、俄然やる気が湧いてくる。ラーマンやオットに聞けば、心当たりもあるかもしれない。理央は早速二人に声を掛け、手を借りることにした。
結局ローラー作戦に近い状態ではあったが、調べてみた結果、思ったより安定供給を望める、ということだった。そして、企業向けに仕入れ値を固定してくれるところも結構な数が存在していた。
当たりをつけてラーマンやオットに直接交渉をしてもらい、ひとまず先方の要求をクリアできるだけの数を確保することができた。
「どうだ、進み具合は。」
「さっきまでバタバタやってた資料はまとめ終わって、今、先方にデータ送ったところです。」
「そうか。」
「あの、真さん・・・」
「ん?」
「今日・・・行っても良いですか?」
小声で聞けば、小野村が微笑んで頷いてくる。いつもの彼だ。そんな事に、凄く安心する。
自分が運悪く知ってしまって、勝手に落ち込んでいるだけだ。彼が悪いわけではない。でも気持ちの靄にはきちんとケリを付けたい。不安の芽は、自分の手で摘んでいくしかないのだ。
デスクに戻っていく小野村の後ろ姿を視界の隅で追いながら、一刻も早くカタをつける為にデスクへと向き直った。
小野村の部屋に招き入れられて、彼がソファへ鞄を置いたのを見計らって、すぐに背後から抱きついた。散々考えたけれど、やっぱり顔を見て言うのは怖い。面倒なやつだと思われることが怖かったのだ。
「俺と一緒に仕事した神崎さん、真さんの奥さんですよね。」
「元、な。」
思いの外、穏やかな声で訂正してきた小野村に内心安堵する。彼の地雷ではなさそうだった。
「俺ね・・・隠されたことがショックだった。隠し事はイヤです。真さんの口から、ちゃんと知りたかった。」
「・・・悪かった。」
あまりにも優しい声で謝ってきたので、拍子抜けして涙腺が緩む。溢れた涙が小野村のシャツに吸い込まれていく。
「悪意はなかった。知らないで終わるならその方がいいかもしれない、って思ったんだよ。ごめん。」
「ッ・・・なんか・・・あっさり、してる・・・」
「今朝、堂嶋から小言を喰らったよ。本当にごめん。許してくれるか?」
「・・・うん。」
ホッとしたら涙が止まらなくなった。自分で思う以上に傷付いていたらしい。小野村の背中にしがみついたまま彼のシャツに涙を押し付けて、大きなシミを作っていく。
「理央・・・」
小野村が頭をそっと撫でる。その掌が温かくて、完全に涙腺が崩壊した。
「ッ・・・」
泣いているのはとっくにバレているけれど、それでも泣き顔は見られたくなくて、しがみ付いた手を離せない。向かい合おうとする小野村に、ささやかながら抵抗した。
困ったように小さな溜息をついた小野村に、少し気分が良くなる。自分のことで頭を悩ませてくれることが嬉しい。ずっとずっとこの人の頭の中を占領できたらいいのに、なんてバカな事を思う。でもそれくらい、この人の事が好きなのだ。
「真さん・・・我儘で、ごめんなさい・・・」
「我儘じゃないよ。今回のことは、俺が勝手だった。」
不安にならないように、言葉を尽くしてくれているのがわかる。自分は彼から大事にされている。そのことがわかっただけで、今回泣くほど悩んだ価値があったというものだ。
「真さん。好きです・・・」
「俺も・・・おまえが大事だよ。」
「他の人のこと、見たりしないでね。」
「おまえしか、見てないよ。」
「うん・・・」
幸せ。この人を好きでいられて、自分は幸せだ。
涙を拭って顔を上げる。小野村とようやく向き合って、彼の唇に自ら口付けた。
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