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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

ツインタワーⅡ-14

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ツインタワーⅡ-14

間違えなく、今年度で一番大きな仕事。そのプレゼンテーションの反応に手応えを感じ、沢山のアドバイスをくれた神崎にも礼を言う。

「こちらの勉強不足を補っていただけて、本当に助かりました。ありがとうございます。」

「とんでもない。こちらこそ助かりました。専門家でしょ、って丸投げされることの方が多いから、今回は本当にやりやすかったです。かなり前から島津さんがプレゼンの資料を用意して下さってたから、準備も入念にできました。手応えもありましたよね。」

営業先から神崎も連れ立って社へ戻り、応接室で一息ついている。田浦の淹れてくれた甘いお茶で喉を潤しながら、プレゼンテーションの内容を振り返る。

「正直言って、勝率は五分五分だと思っていたんです。でも契約に前向きな反応をいただけたので、他社とも差を付けられたんじゃないかな、って思ってます。神崎さんの用意して下さった一ヶ月分のメニューサンプル、あれが効いた感じですよね。本当に感謝してます。」

「ありがとう。でもあなたから感謝の言葉を貰うのは、契約がちゃんと取れてからにするわ。」

「はい」

せっかく話に華が咲いていたが、神崎との仕事はここで一区切りだ。契約が取れて稼働ということになれば、彼女から教育を受けた現地スタッフがフードコーディネートをしてくれることになる。

「今日の便でシンガポールへ戻られるんですよね?」

「ええ。」

「直接会ってご報告が叶わないのは残念ですが、良い結果を出せるように頑張ります。」

「はい。是非。楽しみにしております。」

互いに立ち上がって会釈をし、見送ろうかという時だった。

「そういえば・・・」

神崎が歩き出すのをやめて立ち止まる。何か他に話でもあったかと理央が首を傾げると、彼女が苦笑する。

「島津さんは、小野村真をご存知ですか?」

少し聞くのを迷ったような言い方が引っかかったが、彼女の問いに肯定する。

「え? 小野村ですか? ええ、はい。ここのプロジェクトリーダーで、私の上司ですけれども・・・。お知り合い、ですか?」

彼女の瞳が見開かれて、明らかに驚いた顔をした。

「ええ、知り合い、というか・・・。妻です。元、が付きますけど。」

彼女はすぐに情けなさそうな顔で苦笑した。理央はというと、驚きを通り越して血の気が引いてくる。

「ごめんなさい。関係ないのに、気まずい思いをさせちゃったわよね。忘れてください。あの人にも、内緒にしてもらえる? っていうか、上司なら報告してれば、気付かれてるかもしれないけど・・・。」

神崎の言葉が右から左へ素通りしていく。彼女がすぐに話題を変えて、玄関先で見送るまで仕事の話をしていたが、ほとんど耳には入ってこなかった。

ショックだった。彼女が奥さんだった事実にではない。

小野村には報告していた。彼女の名前も経歴も、仕事に関わること全てだ。上司なのだから、どういった人間と交渉に当たるのかは当然報告する必要がある。知らなかったわけがない。気付かないはずもないだろう。だって自分の元奥さんだ。

でも小野村は・・・教えてくれなかった。彼女以上の適任はいないと思って、自分も神崎に仕事を依頼した。小野村に信頼されてなかったのか。自分が私情を挟んで、適任である彼女を仕事相手として弾くとでも思ったんだろうか。

悔しかった。一人後片付けに戻った応接室で壁にもたれかかる。色んな感情が湧き上がってきて、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

どうしよう。どんな顔で小野村に会ったらいいのか、わからない。頭の中が混乱した今の状態で会えば、何かいらない事を言ってしまいそうだ。こういう時は頭を冷やした方が良い。

何とかそこまで気持ちを落ち着かせて、鞄片手にオフィスを出る。どのみち今日はもう一社、お客さんのところへ行かなければならない。そして小野村の顔を見ずに直帰してしまえばいい。

強烈な直射日光を浴びて、これじゃあ頭は冷えないなと自嘲する。項垂れたところで、営業先から帰ってきた堂嶋と出喰わした。丁度良いと思った。彼なら事情も知っているのだから、飲むついでに愚痴らせてもらおうと、自分から声をかける。

「堂嶋さん、お疲れ様です。」

「おう、お疲れ。またシケた面してんな、おまえ。どうしたよ。」

「今日、愚痴聞いて下さい。」

「おまえから誘ってくるなんて、珍しいこともあんだな。二人で行くか?」

「はい・・・。」

「どうせ、また小野村のことなんだろ。」

「・・・。」

返す言葉もなくて黙り込む。すれ違い様に頭をポンと小突かれて、顔を顰める。

「その顔で客んとこ、行くなよ。シメるぞ。」

今夜はとことん付き合ってやるから、今は気持ちを切り替えろ、ということだ。堂嶋らしい慰め方に笑えてくる。さっきまで怒りにも似た悲しさで胸がいっぱいだったけれど、気持ちが幾分落ち着いた。

相変わらず心に棘は刺さったままだったが、理央は一旦堂嶋に別れを告げて、次の客先へと向かった。
















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