腰が疲弊するほど初日から身体を酷使するとは思っていなかった。しかし頭の中が幸福感で満たされているから問題があるわけではない。
ホテルに着いて早々、昼間から盛ってしまったが、せっかく予約したのでディナーも楽しんでいる。
散々乱れて疲れていても、これは心地良い気怠さだ。二人で情事の残り香をスーツの下へと隠して、テーブルを挟んで向き合う。部屋へ戻れば、また本来の姿を晒して交じり合う。そのギャップが堪らない。
お互い澄ました顔でグラスを傾け合うのは楽しい。仮面を被るのは、決して窮屈なことばかりではない。
相手の秘められた色香を想像しながら見つめ合うのも、ちゃんと立派な恋人としての時間だ。
ナイフを通したメインの羊は柔らかい。独特の臭みもなくて、甘めのソースとも相性が良かった。頬張るたびに小野村へ笑みを向けると、彼も頷きながら微笑み返してくれる。
言葉をさほど発しなくても、心が弾む空気感を共有できることが嬉しい。口の中に甘みが軽やかに広がっていく。それと比例して、心の中で喜びの感情も踊る。
「こういうのも、悪くないな。」
「うん」
好きな人と一緒に過ごして、思う存分愛し合って、美味しい物を頬張る。これが幸せでなくて何だ。
多分顔が緩んでいるんだろう。仕方ない奴だな、という顔で小野村が見てくる。
けれど嬉しいものは嬉しいのだ。それを隠す必要があるだろうか。ここには自分たちを知っている人間なんていない。
現に見渡してみるとレストランの中は外国人だらけだ。ここには新年を贅沢に過ごそうと思う者しかいない。各々の時間を楽しんでいて、他の者たちのことなど気にしてはいないだろう。自分たちにとっては、日本にいながらその視線から逃れられる最適な場所だ。
嬉しくてテンションが上がりっぱなしになる。足をじたばたしたい衝動に駆られるけれど、ドレスコードのあるこのレストランでそんな無作法なことはしない。
「真さん」
それでも弾む声は堪え切れなくて、ワイン片手に口許が緩む。
「今夜も・・・ね?」
満面の笑みで強請ると、困り顔をしながらも視線は理央を捕えたままだ。逸らされない瞳に、さらにボルテージが上がる。
「最後まで、付き合ってくださいね。」
「仰せのままに。」
丸め込まれたフリをして、小野村は策士だ。結局自分は彼のペースで抱かれる。そんな関係が堪らなく好きで、この人への愛が止まらない。
好きで好きで堪らなくて、いつもこの人への愛が溢れてしまう。けれどこの人は受け止めてくれる。それって奇跡だ。愛し愛される関係は全ての人が手に入れられるものじゃない。自分は恵まれている。そんな奇跡を後悔したくない。だから注げるだけの愛を、今この瞬間も注ぎ続ける。
大袈裟でも何でもなく、自分史上最高の時間を堪能するべく、小野村にもう一度ワイングラスを掲げる。そして彼に口付けるように、グラスにそっと唇を寄せた。
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