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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り9

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隣り9

空も明るい内に片岡と駅で別れて帰路に着いた。一人電車に揺られて考える。悟史の事、片岡の事。

悟史と進展する事が考えられない現実を突き付けられてショックを受けたわりには、片岡の言葉と人柄に救われた。自分は優しい人に弱い。

片岡は、悟史への想いも見抜いた上で、それでも付き合いたいと言ってくれた。好きなままでも良いから、という片岡の言葉は自分にはこれ以上ないくらい甘い誘惑だ。嫌いになれない、振り切れないという事を、片岡はわかった上で付き合いたいと言っているのだ。

けれどそれは狡い考えだと、頭のどこかで諌める自分がいる。不誠実だと思ってしまう。

「はぁ・・・」

何度目かわからない溜息をついて、晴れ渡った空を見上げる。心も雲一つなく晴れる日が来てくれたら良いのに、と途方もないことを願った。

 




 

 


部屋に帰り着いて淀んだ空気を入れ替えようと窓を開けたところで、向かいの部屋のドアが開いた。部屋に悟史が入ってきて、こちらにいる歩の存在にすぐ気付く。

「帰ってたのか?」

「・・・うん。今、帰ってきたところ。」

「そうか。」

いつもの癖で、彼の部屋に上がり込む理由を探し始めている自分に気付き、うんざりした。今、悟史の元へ行ったら、悩んだ事が無駄になる。そんな気がした。

ずっと一番の友でいたい。それ以上を望まない。帰り道、自分の胸に言い聞かせた決意が、今会えば崩れ去ってしまう。それくらい自分の決意は脆いという自覚があった。

会いたくて、会いたくない。友だち以上になりたくて、この関係が壊れる事を何より恐れている。

「やっぱり、ちょっと具合悪かったみたいで・・・寝るね。」

「大丈夫か?」

「寝れば大丈夫。疲れてるだけだと思うから。」

想いを断ち切るようにカーテンだけ閉めて、視界から悟史を消した。ベッドまでの僅かな距離、溢れた涙が床を濡らした。嗚咽が漏れるほど泣くのは久しぶりで、止める術がわからない。

こんなに好きなのに言えない。悟史に想いを伝える勇気はない。

子どもの頃は大好きだと言えた。手を繋いだ。泣いたら抱き締めてくれた。けれど今それを悟史に望むことはできないのだ。

言ってしまったら、悟史はきっと困るだろう。優しいからこそ、歩を断ち切ることはしないだろう。けれど想いが交わらないなら、歩にとってそれ以上の生き地獄はない。

誰でも良い。助けて欲しい。自分の初恋は今となっては苦しみしか生まない。

浮かんだ顔は片岡だった。彼ならきっとこの気持ちをわかってくれる。好きで、虚しくて、途方もないこの混沌とした心を掬い取ってくれる。もしかしたら癒す方法も知っているかもしれない。

ベッドに重い身体を横たえて、泣きながらスマートフォンを立ち上げる。交換した連絡先を別れてすぐ使う羽目になり、自分の心の弱さが情けなかった。

《都合の付く日に会いたい》

たった一行、縋るような気持ちで送信した。すぐにバイブレーションが手の中で響く。

《明日、放課後どう? そっちの学校の最寄駅まで行くよ》

歩の高校まで来てしまったら、片岡には遠出になるだろう。けれどそれでも来てくれると申し出てくれた片岡の優しさに、心が温かくなる。

二人で何度かメールを送り合う。そして片岡から来た、返信不要と打たれたメールを最後にやり取りを終えた。

「返信不要、って仕事のメールみたい・・・」

なんだか妙に業務的なメールに可笑しくなって、一人小さく笑う。優しい彼と一緒にいたら、いつかこの傷も癒える日が来るかもしれない。さっきまで抱えていた絶望的な気分から少し浮上する。

本当は話を聞いて欲しいからメールしただけだった。けれどメールを終えた今では、付き合ってみようかと思い始めている自分がいた。















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