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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り8

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隣り8

二人で入った喫茶店は高校生が入るような雰囲気ではなかったものの、メニューに目をやったら、チェーン店のコーヒーショップと大差ない値段だった。地元の憩いの場として機能しているらしく、ラフな格好をした年配の人が、それぞれ新聞や本を片手にコーヒーを飲んでいた。

「歩のこと、初めて会った時から気になってた。サーブで打ち込む瞬間の身体が綺麗だよね。別に変な意味じゃなくて。無駄な力が入ってなくて、自然なんだ。見てて清々しい気分になるよ。」

惚れ込むところがマニアックで少し笑えた。クスッと笑みを零した歩を見て、片岡が頬杖を付いたまま笑いかけてくる。

「よかった、笑ってくれて。」

「ごめん。ビックリしたから、その・・・」

「いいよ。狡い事したのは俺の方だから。ビックリしたのは告白の方じゃなくて、彼の事だろ?」

「俺・・・顔に出てた?」

顔に出ているのならマズい。悟史にいつか気付かれてしまうかもしれない。もしかしたら、もう気付いているかもしれない。

そう思ったら、途端に怖くなった。もし気付いていて何も悟史に変化がないのだとしたら、なかった事にされているということだ。

「ずっと見てたから気付いただけだよ。普通の人が見れば、凄く仲の良い友達にしか見えない。」

「そっか。」

片岡の言葉を聞いて、気休めでも少しホッとする。

「最初、付き合ってるのかと思った。」

「え?」

「でも、見かけるたびに見てたら違うんだな、ってわかったよ。」

「付き合ってないよ。俺が一方的に好きなだけ。」

初めて言葉にしてみて、悲しさは増した。消えてなくなってしまいたいほど、せつなくて苦しい。

けれど片岡には不思議と話せる。少なくとも同性に恋をしている自分を隠さずに済んでいるのだから、今までの自分からしてみたら途轍もない進歩だ。

「変だよね・・・」

自虐的な言い方をして、すぐに後悔する。片岡だって同性の自分を好きだと言っているのだ。自分の発言がそれを否定する言葉だと、言った後に気付く。

「ごめん。あの、そうじゃなくて・・・」

「いいよ、別に。歩はもしかして、初めて?」

「え?」

「人に話すの。」

「・・・うん。」

「そっか。」

パスタをフォークへ巻き付けた片岡が、そのフォークを歩の口元へと突き出してくる。

「冷めちゃうから、取り敢えず食べなよ。美味しいよ、ここの。」

「う、うん。」

突き出されたフォークを受け取って、パスタを口に入れる。口の中で広がったトマトの酸味と甘みが程良くて美味しいかった。一口食べて、相当お腹が減っていたことを今更思い出す。午前中は試合でコートを駆け回っていたわけだから、お腹が空いていて当然なのだ。

「歩」

「うん?」

口に沢山頬張ったまま、間抜けな顔で片岡へ応える。

「良い食べっぷり。ちょっと意外で可愛いな。」

可愛いなどと言われたのは子どもの頃以来だ。咽せた自分に、片岡が遠慮なく笑う。歩もつられるようにして笑った。

「もったいないよ。ずっと片思いのままでいいの?」

さっきまでの自分なら少し感情的になりかねなかった言葉も、笑って力が抜けていたので、冷静に受け止める事ができた。

片岡の言葉は最もなのだ。悟史と自分との距離をどうしていくのかは、自分にとって重要な問題だった。

「あいつと、これ以上距離を縮められる?」

片岡に問われて、考えるまでもなく首を横へ振った。

「怖くて・・・言って、嫌われたらって思うと、今のままが良い・・・」

「歩、それが答えだよ。」

「え?」

「言えないんだろ? だったら、ずっと幼馴染だ。」

片岡の言葉が胸を静かに裂いていく。けれど痛みで狂うほどではない。言われるまでもなく、わかっていた事。ただそれを片岡が、明確な言葉にしてくれただけに過ぎない。

「辛いよ。俺、同じ経験をして、結局耐え切れなくて・・・俺から壊しちゃったんだ。」

片岡が、歩と悟史の関係に口を挟んできた理由が少しだけわかった気がした。大事な友という立場と、恋人という特別な関係を望む心を天秤にかけ続けて疲れてしまったのだろう。それまで築いてきた関係を壊すというのはどういう事なのか。

一緒にいられなくなるだけではない。心の拠り所がなくなるということだ。

もし悟史とそんな事になってしまったら、自分は耐えられるだろうか。片岡のようにまた次の恋に進めるんだろうか。考えただけで自分が自分でいられなくなりそうだ。自分だったら、一生後悔してしまう。きっと立ち直る事なんてできないだろう。

「一度、考えてみて。そこに、俺と付き合うっていう選択肢も足して考えてくれると嬉しいんだけど。」

ちゃっかりしている片岡に、うっかり苦笑いが溢れる。片岡が不服そうに眉を上げたけれど、すぐに彼の顔からも笑みが溢れた。









 








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