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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り36

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隣り36

結局会えないまま、片岡のいない一年を過ごしてしまった。大阪と東京という距離は高校生の自分たちにとっては想像以上に遠かったのだ。歩は部活や予備校に走り回る日々、片岡は受験勉強一色。

しかしようやくその生活に一つ区切りが付く。片岡の合格の知らせをメールで受け取って、すぐさま彼に電話をした。会える日が待ち遠しくて、今すぐその声を聞きたくて、居ても立ってもいられなかった。

毎日少しずつ降り積もった気持ちは、今では溢れるほどに大きい。電話で片岡の声を聞くたび、何度励まされたことか。

落ち込む理由は悟史の事だけではなかった。勉強も部活も、好きで描いていたはずの絵ですら重荷としてのし掛かってきた事がある。そのたびに片岡の声に慰められてきた。

自分が自分であるために必要な人。好意が恋に変わっていく不思議な感覚を、この一年で自分は確かに感じ取ったのだ。

片岡が合格したのは国立だったため、合格発表の後が慌ただしい。急いでこちらに住まいを探さなければならないし、引越しをして新生活への準備をしなければいけない。明日にもこちらへ来ると聞いて驚いてしまった。そして嬉しさで胸がいっぱいな自分に、もう戸惑う事はなかった。

片岡が好き。その気持ちが何の障壁もなく真っ直ぐ心の奥に落ちてくる。それと同時に悟史への恋心が思い出になったことを感じた。

片岡に会ったら伝えたい。ありがとうと好きな気持ちを。待たせた分、きっと自分は片岡に苦しい思いをさせたはずなのだ。そう思い至るくらいには大人になった。

「賢介・・・会いたい。とっても会いたい・・・」

スケッチブックに描いた片岡の姿は一年前に比べて深みを増した。それは絵を描く腕が上がった事もあるけれど、片岡への気持ちが増した証だと自分では思っている。

彼を想う事が楽しくなった。想うだけで穏やかになれて安心する。鉛筆を握る手にも熱がこもって、のめり込んで描く事もしばしばだった。

この絵を見たら、片岡はどう思うだろう。日ごとに移り変わっていった歩の心がそのまま写し出されているこの絵。

見せるのは気恥ずかしいけれど、言葉を駆使して語るより、この絵が全てを物語っている気がして、彼に見せたいという欲求が湧いた。

大学生になったら、きっと見える世界は違う。視野も開けて、片岡にとって自分がとてもちっぽけな存在になってしまうかもしれない。それだけが不安だった。

たった一年。けれど自分たちの一年差はとても大きい。先を行く片岡に、置いていかれたくない。片岡の魅力に気付く人たちに負けない自分でいたい。

先走っていきそうになる思考を、深呼吸をして止めた。今自分に出来ることをやっていくしかないと、心に言い聞かせる。

「賢介・・・早く会いたい。」

明日が待ち切れなくて、もう一度声に出して言ってみる。時計の針の進む速度をとても遅く感じる。結局歩は、会える嬉しさに興奮して、眠れぬ一夜を過ごした。















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