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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り32

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隣り32

片岡のいない日々を寂しがる暇もないほど、色んなものに追われた。絵の予備校ではデッサンで次々に自分の課題が見つかるし、苦手な数学を克服するために一人机に向かう時間も増えた。部活も大会のあるたびに出場し、怪我もなく過ごして充実していた。

片岡を想って寂しくなるのは、スケッチを取り出して眺めている時だ。写真を見るより如実に彼の姿を生々しく思い出す。

毎日就寝前に彼を描いたスケッチを取り出しては、ホンモノの彼に電話をする。慣れない環境での受験勉強はやりずらいのではと心配したが、本人の話を聞く限りでは、かえって好環境らしい。深い交友関係に悩まされる事なく集中できるからだ。

片岡との通話を切って、目を瞑って余韻に浸っていると、スマートフォンが着信を告げて振動する。片岡だと思って開いた画面にあった名は悟史だった。

悟史とは片岡と過ごすようになってあまり会わなくなった。家が隣りでも、案外二人を繋いでいたものは少なかったのだと思ったものだ。

何の用かはわからなかったが、明日一緒に登校できるか、という主旨の内容だった。頑なに拒むほどのことでもない。了承の旨を返信してカーテンの閉まった窓に目を向ける。

悟史と過ごした時間はそのほとんどが楽しいものだった。今思い返せば、辛かった期間はごく僅か。折角の幼馴染を自ら失いにいくほどの事でもなかったのかもしれない。

けれど、元通りの自分たちに戻れるかと問われたら、まだ今の自分では快くイエスとは言えない。悟史からのメール一つにもぎこちなくなる自分は、初恋を捨てきれたとは言えないだろう。
片岡の声を聞いて安堵した直後に、悟史からのメールで浮かない気持ちになる自分。片岡がそばにいてくれたら、ここまで浮き沈みが激しくなることはなかったのではないかと思う。

大した用事ではないといい。そう願いながら、歩はスマートフォンの画面をオフにした。

 





 

一緒に行くと思うだけで気が重いのは意識している証だ。悟史への恋心は消えていない。彼にこれ以上の気持ちを傾けることはなくても、片岡の指摘したことは正しかった。

離れているのに心配させたくない。けれど言ってラクになりたい気持ちも捨て切れない。

並んで歩く最寄駅までの道が大層長く感じられた。

「歩。詮索するようであんまり気は進まないんだけど・・・」

「うん?」

「おばさんが心配してた。いつも夜遅くに誰かと電話で話してるって。」

「あぁ・・・友だちと話してるよ。」

「恋人とかじゃなくて?」

「・・・。」

咄嗟に違うと否定できず、妙な間が空く。けれど片岡の顔を思い浮かべたら、全力で否定なんかできなかった。彼女ではなく同性だけれど、やっている事は同じだ。

「相変わらず、ウソつくの下手だな。だけど、別に隠す事でもないんじゃないか?」

高校生にもなって恋人がいる事くらい、確かにわざわざ隠す事でもない。けれどそれは相手が異性であれば、だろう。同性が相手である事を明かしてしまうリスクは自分にもある程度わかっている。すんなり受け入れてもらえるものとは思えなかった。

「友だちだよ。彼女はいない。」

「そうなのか?」

「うん。」

悟史が納得していないのは顔を見ても明らかだった。

「まぁ、そういう事にしたいなら、別にそれでもいいけど・・・」

悟史の言い方が頭にきて、つい必要のない追及をしてしまう。

「悟史、何?」

「そんな怖い顔するなよ。俺は偏見ないよ。付き合ってるんだろ? ずっと前に試合で声掛けてきたヤツと。」

悟史の言葉に身体から血の気が引いていく。

どうして。何故、知っているのだろう。疑問がグルグルと頭の中を回り始めて、駅に向かっていた足さえも止まる。

「おばさんには適当に言っておくか?」

悟史の言葉が耳を掠めただけで、脳まで届きはしなかった。

片岡に待つと約束したのに。まだ自分の中には悟史への想いが残っていた。ショックを受けた自分に、またさらにショックを受けた。

自分と片岡の関係を知ってもなお、全く惜しいと思ってもらえない事が悲しい。一縷の望みもないのだと言われているに等しいのだ。

悟史の一番側にいたかった。けれどこの願いは永遠に届かない。自分が彼の隣りに並ぶ日はやってはこないのだ。

自分はもう十分傷付いた。現実を知った。このまま一緒に歩いて登校なんかできない。悟史を置いて、歩は来た道を戻り始める。

「歩!!」

「来ないでッ!!」

追い掛けてこようとした悟史に言い放つ。こんな激しい口調で悟史を拒んだのは初めてだった。

「おい!」

家までの道を全力で駆ける。

今日くらい許してほしい。一人籠ってたくさん泣いてしまおう。そう思いながら、すでに涙が頬を濡らしていた。本当に今日が最後。もうこれ以上、この初恋に振り回されてはいけない。

好きだった。優しくて、いつも気に掛けてくれていて、特別なんだと思っていた。彼の懐に入れるのは自分だけの特権だと。違う。そう思いたかっただけだ。

背中で悟史の声を聞きながら、歩は自宅へと逃げ帰った。


















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