この手を離すのが心細くて、組み敷かれながら片岡のシャツにしがみ付いた。したいと誘ったのは歩の方だが、具体的にどうするのかなんて知らない。降ってくるキスを受け止める事ですら必死で、口付けの合間に慣れない息継ぎをする。
片岡がシャツのボタンに手を掛ける。一つひとつ丁寧に取られて、肌着の中に彼の手が侵入してきた。
ただ撫でられただけなのに、腰が疼いて無意識に揺れる。胸に片岡の唇が降ってきて、飾りに舌が這うと、情けないほど感じ入る声が溢れてしまう。けれど片岡は気に留める様子もなく、愛撫を続けてきた。
「あッ・・・ん・・・ッ・・・」
「気持ちいい?」
「ッ・・・けんす、けッ・・・」
怖い、という言葉を咄嗟に呑み込んで頷く。言ってしまえば、優しい片岡の事だから、本当にやめてしまうかもしれない。彼の特別だという証が欲しい。離れていてもその温もりを忘れないくらいの強烈な思い出を身体に刻み込みたい。
片岡の柔らかな唇が肌の上を彷徨う。触れた先から熱が生まれて、身体が自分のものではなくなっていくような気がする。
恐怖心が完全に消えたわけではないけれど、心が不思議と満ちていく。求められる事がこんなに嬉しい事だと自分は知らなかった。想うばかり。しかも一方的な報われない想いは、いつも虚空に散っていくだけだったから。
片岡は側にいて欲しい時、いつも慰めてくれた。歩が望むだけ抱き締めてくれる。そんな彼が一年とはいえ、自分のもとからいなくなってしまう。いなくなるとわかって初めて、存在の大きさに気付く。
同じだけの熱量で想いを返せているかどうかはわからない。けれど同じものを分かち合って自分を笑顔にしてくれる人は、とても大切で特別な存在なのだとわかった。
離れたくない。だって離れている間に、こんな中途半端で面倒な自分の事を忘れて、彼はもっと素敵な別の誰かを好きになってしまうかもしれない。
どんな風に伝えたら、彼は自分のものでいてくれるだろう。好きなのかわからない。でも離れたくないし、誰にも渡したくない。
「好き・・・賢介、好き。行かないで・・・」
こんな事、泣きそうな顔で言う自分は心底狡い。わかっていても、繋ぎ止める言葉はそれしか思い浮かばない。気が付いたら言葉が溢れて出ていた。
「歩、絆されちゃった?」
「ぁ・・・ッ・・・んッ・・・」
片岡が話しながら下肢に触れてきた。ズボンを下げられ、露わになった腿を弄る。くすぐったいだけではなく、腰から背にゾクゾクと知らない何かが這い上がっていく。その感覚に合わせて、腰の前で主張する分身が揺れながら硬く反っていく。
「歩・・・待っててくれるって、思ってもいい?」
「うん」
「でも・・・きっと辛い。」
「どうして?」
「歩、まだあいつの事、好きでしょ?」
「そんなこと・・・」
「俺がいなくなったら、あいつを好きな気持ち、きっとすぐに思い出すよ。」
「なんで? そんなこと・・・」
両頬を片岡の手に包まれて、温もりが肌を伝ってくる。優しい彼の心に守られているような感覚。
「誰かを好きになった気持ちって、そんな簡単に消えない。でもそれは俺も同じ。」
「賢介も?」
「うん。歩に魔が差さないか心配。せっかくこんなに近付けたのに・・・。さっき俺に好きだって言って期待させたんだから、責任取ってよ?」
片岡は歩の返事を待たず、ふわりと笑って深く深く口付けてくる。片岡は今、歩の明確な答えを望んでいるわけではないのだろう。片岡は歩の心境をわかっていて、とても冷静にこの中途半端な二人の関係を見ている気がした。
「歩、今日は気持ち良い事だけしよう。歩が俺のものになる覚悟ができたらセックスしたい。」
最初は痛いよ、と片岡に脅されて、期待より恐怖心が勝ってしまう。
「歩、目瞑って。」
「・・・なんで?」
「どうしても。」
少しばかり意地の悪い笑みを浮かべた後、片岡が目を瞑るように催促してくる。結局根負けして渋々瞼を閉じた。
いつも閲覧いただきまして、ありがとうございます。
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる