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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り26

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隣り26

九月初旬に迎えた試合を最後に、歩の先輩たちは部活を引退した。彼らにはこれから一年以上、勉強漬けの日々が待っている。その背中を送り出して、歩は気を引き締めた。

歩の高校のテニス部では必ずしも強いプレーヤーがキャプテンになるわけではない。なったのは小柳だった。歩は性格的に人を引っ張っていけるタイプではないので、指名されなかった事に心底ホッとした。

「倉橋差し置いてキャプテンは重圧。」

「俺はキャプテンとか無理。面倒見も良くないし。その点小柳は気が利くし、向いてると思うけど。」

「そう?」

「うん。」

「じゃあ、そういう事にしとくか。」

「そうだよ。」

小柳とは前から一緒に行動する事が多かったが、夏休みの一件でより友人としての距離が縮まった。積極的で顔も広い彼は、何かあるたびに誘い出してくれる。人見知りの歩には心強い友だ。

胸ポケットに入れていたスマートフォンが震える。片岡からのメールだった。今日会えないか、という誘い。浮き足立った気分で会えるよ、と返した。

 

 



 

大事な話があると言われて、いつものように片岡の部屋に上がり込む。あまり良い話ではない予感がして、早く聞かせて欲しいと願いながらも落ち着かなかった。

「歩」

「うん・・・」

「俺ね、転校するんだ。」

いつもと変わらぬ口調で唐突に降ってきた話に驚いて思わず、どうしてと口から言葉が溢れた。

「親父が転勤で・・・ついて行くよ。大学はこっちに戻ってくるつもりだけど・・・」

「・・・。」

「行きたくないけど、高校生の分際でどうこう言えないし・・・歩、こんな中途半端なままで、ごめん。」

突然の話で頭がついていかない。片岡に対して芽生え始めた気持ちが一気に膨れ上がるくらいには衝撃的だった。

「賢介・・・全然、会えない?」

「そんな事ないよ。長い休みの時はこっち来たいと思ってる。」

「会いたい・・・」

「歩・・・歩は、俺とどうなりたい?」

明確な答えを出していなかったのは歩の方だ。逃げていいと言ってくれた片岡に甘えていたのも自分。

「俺が大学に入るタイミングでこっち来るだろ? その時まで、ゆっくり考えて。」

答えを出そうと焦った自分に、待ってくれると言い出した片岡に呆然とする。歩に時間をくれるという。自分にここまで思われる価値はあるだろうか。縋って、待たせて、自分は狡い。甘え過ぎていると思う。

「急いでほしくない。ちゃんと考えて決めて。俺さ、歩の事・・・真剣に好きだから。」

「・・・。」

「ね?」

「・・・うん。」

堪らず、歩の方から小指を出した。片岡は意表を突かれたらしい。キョトンと目を見開いて、すぐに破顔した。

二人で指切りをして、約束をする。次に会う時は自分の決意を話せる自分でありたい。そう思いながら、片岡の指を握りしめて、名残惜しいと思いながらその手を離した。















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