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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り23

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隣り23

結局歩の高校で勝てたのは、歩とキャプテンだけだった。後は惨敗。けれど特段落ち込む事もなく、皆すっきりとした顔をしている。

片や強豪校の一つ、こちらはガリ勉ばかりが集う進学校だ。向こうが合宿を組む事を望んできたのは、主に全国クラスの歩とキャプテンが目的だということは周知の事実だから、逐一皆気にしていない。レギュラーメンバーがほとんど全国クラスの学校と、運動不足解消にやっている部活を比べる方がそもそも間違っている。

「西島先輩も倉橋も、すげぇよなぁ。」

「ホント、ホント。」

「俺、相手サーブ、ほとんど手も足も出ないもん。」

「そうそう。気が付いたら、点取られちゃってる感じだよなぁ。」

酷使した足を各々マッサージしたりツボ押したりしてケアをする。布団に寝転がったまま、すでに爆睡を始めた者までいて、自由気侭だ。

片岡の方は連日夜に反省会があるらしい。こちらとは気合いの入りようが全く違う。

歩の高校はむしろ合宿中に自習時間が設けられていて、各自夏休みの宿題をその時間に消化する。皆わりと真面目に取り組むのは、赤点を取ってしまうと補修三昧になって、実質部活動に参加できなくなるからだ。息抜きの部活をしたければ、自然に勉強にも取り組まざるを得ない仕組みになっている。それぞれ高校によって色が違う、というわけだ。

歩もストレッチをしながら酷使した身体を解していると、テーブルに置いていたスマートフォンのバイブレーションが響いた。手を伸ばして開くと相手は片岡だった。どうやら今日の反省会がひと段落ついたらしい。

「倉橋、誰? 彼女?」

「え? いや、違うけど・・・」

「ホントかぁ?」

「違うよ。賢介・・・あっちの学校の片岡くん。」

「へぇ。そんなに仲良いんだ。そういえばよく一緒にいるよな。」

他人から見ても頻繁に二人でいると思われているらしい。その認識に少し動揺する。歩としてはそこまで行動を共にしていた自覚はなかったからだ。

「なぁ、倉橋。」

「うん?」

神妙そうな顔でクラスメイトでもある小柳が声を掛けてくる。

「片岡先輩、俺同じ中学だったんだけどさ・・・」

「そう、なんだ・・・」

少し躊躇ってから、小柳が結局口を開いた。

「片岡先輩、昔からマネージャーだったわけじゃないことは知ってる?」

「うん。中学の時、試合で何回か当たったことあったし。」

「片岡先輩、ちょっとトラブルっていうか・・・ゲイだって噂になった事があって。その後片岡先輩と同じクラスのリーダー格だった奴が、気持ち悪いって片岡先輩のこと暴行する騒ぎがあったんだ。」

片岡の口から全く聞かされていない話に驚いて小柳の顔を見る。

「結局暴行騒ぎを起こした奴は停学になった後、転校したんだけど。先輩、その時膝に怪我して・・・テニス辞める事になったんだ。倉橋、知ってた?」

「いや・・・知らなかった・・・」

「なぁ、俺、ゲイかもしんないって事の方が気になんだけど。その噂はホントだったわけ?」

興味深々といった表情で、一人が小柳に問い質した。

「うん。それは本当みたいだよ。本人も否定してなかったし、先輩たちがその後腫れ物みたいに扱ってて、俺たちもちょっと戸惑った。」

知らなかった。深く追求した事がそもそもなかったけれど、そんな理不尽な目に遭って、選手生命を絶たれたなんて、自分のことのように悔しくてたまらなくなってくる。湧き上がってきた怒りで黙っていた歩だったが、メンバーのさりげない一言にショックを受けた。

「倉橋、気を付けた方が良いんじゃねぇの?」

揶揄い口調で言うそれは、場を和ませるための軽口なのだとは理性ではわかる。けれど湧き上がったのは強烈な反発心だった。

同性が好きなだけで危ない存在のように言われる事が悔しい。片岡が侮辱されているような気がして腹が立つ。つい売り言葉に買い言葉のような調子で言葉を返してしまった。

「俺も、ゲイだよ。」

「え・・・? マジ?」

「・・・ごめん、倉橋。もしかして、付き合ってる、とか? 悪い・・・俺、余計な事言った・・・。」

歩が怒っている気配が小柳たちに伝わったのだろう。慌て出した彼らに、徐々に歩も頭が冷めていく。

「賢介には何の落ち度もないのに、酷い・・・」

「倉橋、ごめん。そういう意味じゃなかったんだ。俺、面白半分で・・・ホント、ごめん・・・」

すぐに真剣な面持ちで謝ってきたことに溜飲を下げる。怒りをぶつけて感情的になった事が少し恥ずかしくなる。

「・・・ごめん。俺もちょっと意地になった・・・」

互いに謝って苦い溜息をつく。

「倉橋、女子ダメなの?」

「・・・うん。」

「もったいねぇ。モテるのに・・・」

「むしろ強力なライバルがいなくなってラッキーだろ。」

「おまえじゃ、ライバルにはならないんじゃないか?」

小柳が笑いを誘って張り詰めた場の緊張を一気に解いてくれる。その後少し揶揄われたけれど、嫌な気はしなかった。

ひとしきり皆で笑った後、疲労困憊のメンバーは各々布団に入っていく。そして間もなく夢の中に落ちていった。














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