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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り22

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隣り22

前日まで辻褄の合っていなかったサーブ。しかし昨夜片岡に指摘された事を意識して取り組んだら、腰から手の先までの伸びが良くなった。練習も終盤に入ってくると、狙い通りに球が落ちていくようになった。やはりテニスは楽しい。そう思えるくらい精神的にも回復してきてホッとする。

合宿に入ってから初めての交流試合。なるべく多くのメンバーが出られるように、シングルス五人、ダブルス五組をそれぞれ出してトーナメント戦をする。

歩は先日のシングルス地区大会決勝で当たった相手といきなり初戦で当たってしまった。片岡に軌道修正してもらえていなかったら、危なかっただろう。

ラケットを握って、相手のサーブを見定めている時は、自分でも怖いくらい無心になる。しかし今はその集中できる感覚が嬉しかった。球が空に舞って、次の瞬間には高速でコートの中に鋭く走り込んでくる。たった一つその事だけを考えていればいいのだ。

相手のサーブが甘く入ってきたところを、すかさずフォアーハンドで返す。苦手だと思われるバックハンド側に深く入れると案の定彼は振り遅れてラケットの中央で球を捕えきれずに、球があらぬ方向へと飛んでいった。

必死で球を追い掛けて、息を切らすのは楽しい。試合も後半に差し掛かってくると汗だくだ。

「フィフティーン、フォーティー」

次に歩が決めればゲームセットだ。

相手が一本目のサーブをネットにかけてしまったところで、一旦切れた集中力をもう一度身体に呼び戻す。

彼にしては珍しく鋭く入った二本目のサーブを、歩は意表を突いてネット付近に落とす。反応できなかった相手が全く走り込むこともなく、ゲームセットになった。

圧勝できた事にラケットを強く握り締めて小さくガッツポーズを取る。正直なところかなり警戒をしていた。

散々自分の事を見ている片岡が入れ知恵をしているわけで、弱点もたくさん知られている可能性が高い。片岡も試合前、そこに関しては好きだからといって手加減はしないと宣戦布告してきた。

ベンチで見守っていた片岡にチラリと視線を送ると、深い溜息をつきながら苦笑している。

普段弱みばかり見せているから、嬉しい。彼に少しばかり勝気な自分を見せられて満足する。

合宿は男子と女子は別々。黄色の声援はない。今の試合に集中できたのは、この環境のおかげでもあるだろう。

中学時代はまだ体格も貧弱で、自分を囲う目はそこまで好奇の目で溢れてはいなかった。しかし高校に入って自分を取り巻く環境は変わった。

男女関係は気恥ずかしさより興味の方が勝っていくお年頃。女子が男子を見る目も、またその逆も、良くも悪くも露骨になってきた。付き合ったり別れたりという話も頻繁に耳にするようになる一方で、女の子に興味を持つどころか悟史にしか好意を寄せられない自分。全てに適応できなくて、囲まれるたびに戸惑いは増していくばかりだ。

目立つ容姿なのは自覚がある。可愛いと言われることから格好良いと言われる対象へ変わり、人見知りで大人しい性格が自分をクールに見せている。

褒められること自体が嫌なわけではない。けれど容姿からの印象が先行して、歩の心はいつも置き去りだ。

馬鹿騒ぎして男だけで盛り上がるコートの周囲。その環境にホッとしている。お互い汗塗れの身体で揉みくちゃになって、最後水道のある水場で皆でずぶ濡れになった。

難しい事を考えず、勝って喜んだり、仲間が負けて一緒に悔しがったり、とてもシンプルで周りがクリアに見える。

久々に思い切り笑った。








 








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