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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り21

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隣り21

外出はできないから、片岡と二人ロビーの隅の方で並んで立つ。身体を限界まで酷使しているものだから、修学旅行のように盛り上がって夜通し騒ぐような事はない。歩と同じ部屋のメンバーではすでに夢の中にいる者もいた。まだ時刻は夜八時。中学時代からハードな練習をするのに慣れている歩は、疲れてはいるものの倒れこむほどの疲労は感じていない。

「歩、サーブのフォーム変えた?」

「え? いや・・・変えてない、つもりなんだけど・・・」

「そっか。調子は?」

「悪くはないけど・・・確かにちょっと、狙いとズレて入ること続いてて・・・」

「一ヶ月くらい前からじゃない?」

「・・・。」

悟史との事があって、環境を変えたのがその頃。サーブの精度が下がったのもその頃だ。だから片岡の指摘は正しい。

「背の伸びと手の伸びの角度がちょっとズレてるんだ。明日はそこを意識してみたら?」

「・・・うん。」

片岡はわかっているはずなのに、技術的なアドバイスのみで、他に追及してくることはなかった。気を使わせている。情けなくなるけれど、優しさが骨身に沁みる。

「歩、どうした?」

「うん・・・。」

促されるまま話そうとするものの、望むことをどう言葉にしたらいいのかがわからない。迷ったまま引き寄せられるように片岡の手に触れてみる。すると片岡が大丈夫だと宥めるように顔を覗き込んできて、人目を盗むように手を握ってくれた。

安心する。片岡の触れた手を伝ってくる温もりにホッとした。二人で黙ったまま手を繋いでいるだけで、また少し頑張る気力が湧いてくる気がする。

「慰めてほしくなっちゃった?」

「ッ・・・」

慰めるの意味が、身体の関係を指すのだと、歩にもわかる。望んでいた事はまさにそういう事だ。羞恥心で俯いたまま、こっそり繋いだ手を握り返して応える。

「歩は・・・俺に心までくれる?」

片岡の言葉に顔を上げて、自分が彼にとても酷い事を望んでいるのだと悟った。優しさにつけ込んで、身体を欲しいと願ってる。けれど心まで渡せないというなら、自分と真面目に付き合うことを望んでいる片岡に、あまりにも理不尽な話だ。

「ごめん、意地悪な言い方だった。いいよ、それでも。歩が後悔しないなら。」

小さな声で紡がれる片岡の言葉に罪悪感でいっぱいになった。彼にこんな事を言わせた自分が嫌になる。

「賢介、ごめん。俺・・・」

「歩」

「・・・。」

「気持ち、隠さないで。」

「でも・・・」

「いつか振り向かせるから。だから、余計な事、考えなくていい。」

真っ直ぐな目に見つめられて、歩は申し訳なさでいっぱいになる。片岡はそう言ってくれるけれど、良いわけがない。優しい彼の気持ちを蔑ろにして、それを踏み台に這い上がろうとするなんて間違っている。

「おい、片岡ぁ。コーチがおまえのこと、呼んでる。」

「わかった。行く。」

話が中途半端なまま、片岡に呼び出しが掛かってしまった。気まずいまま別れるのが悲しくて心細い。

「歩、ごめん。後でメールするよ。な?」

「うん・・・あのさ・・・」

「ん?」

「ちゃんと考える。賢介に迷惑かけたくない。」

「迷惑じゃないよ。好きで一緒にいるんだから、むしろ大歓迎。」

「・・・。」

ここで言い返さず、彼の優しさに甘えてしまう自分はやっぱり狡い。けれど歩の頭を撫で回して颯爽と去っていった片岡の後ろ姿は見惚れるくらい格好良かった。















 








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