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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り20

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隣り20

片岡がマメに様子を伺ってくれるお陰で、どうにか持ち直して夏休みを迎えた。

結局、悟史とは行きも帰りも一緒には行かなくなった。早く出掛けて、美術室でデッサンをする事にしたのだ。

自分の心は自分で守れと片岡に口酸っぱく言われたのもある。期末試験やテニスの試合なども控えていたから、自ら距離を置く決心をした。

夏休み入ってすぐ、合宿へ向かったバスを降車してホテルの前で片岡と鉢合わせた時は驚いた。どこの高校と合同になるかまでは話を聞いていなかったからだ。しかしどうやら片岡の方は知っていたらしい。何事もなかったように手を振ってきて、コートのある方へ一足早く姿を消していった。

悟史の一件で泣き散らしてから、片岡は手を出してこなくなった。気分が沈んでいる時は抱き締めてくれるけれど、キスを仕掛けてくることはないし、それ以上はもちろんない。

恋を休もうと言ってくれた本人だからこそなのだろうけれど、少し彼の温もりに飢えている。

柔らかい唇に触れて包まれ、頭を真っ白にするほど快感得て、その温かさに溺れてしまいたい。そう願うようになった自分の心境の変化に少し驚いたけれど、それが正直な気持ちだった。

合宿中に話せる機会があるなら、せっかく近くにいるのだし、打ち明けてみようかと考える。あまり人に意見できる性格ではないのだが、片岡には最初から心の内を見せてしまっているから、思う事を正直に話しても軽蔑されたりしないだろうという安心感があった。

今までの自分からしてみたら進歩だ。人に寄り掛かれる。その心地良さを知って、恐れないで済む。片岡は一緒にいるとそういう時間をくれる。

好きなのかどうなのかは、よくわからない。悟史に対して抱く激情とは明らかに違うけれど、だからと言って、他の友人たちに抱く距離感ともまた違った。

荷物を部屋に置いて、着替えを早々に済ませる。身軽になった身体で深呼吸をして伸びをした。身体を必死に動かす時は、余計な事を考える暇がない。合宿中はコートに入る時間よりも、筋力トレーニングやストレッチに多くの時間を費やすからなおさらだ。

考え事をしていると、筋肉の動きにムラが出て違和感として脳に伝わってくる。身体はとても正直だ。だから動かす筋肉に全神経を注ぐので身体は疲れるが、心はリラックスできる。自分に夢中になれるものがあって良かったと、こんな時だからこそ思う。

歩はまだ一年生だ。単純に試合の勝率を言えば歩の方が上を行くが、ここは学校。運動部の部活動では学年での上下関係がある。先輩たちがウォーミングアップの後早々にコートへ入っていく姿を見ながら、歩も他の一年生と同様に球拾いや素振りの練習をする。

しかし歩はそれで良いと思っている。ただ強くなりたいだけならテニススクールへ行けばいい。部活動はクラスメイトとは違った顔触れで一つの事に熱中できるから面白いのだ。人見知りの自分でもテニスを通せば少し積極的に行動していけるからここにいる。だからこれでいい。

コート周囲での走り込みを終えて、球拾いの順番が回ってくる。隣りのコートでは片岡がマネージャーとしての務めに精を出していた。

強豪校であればあるほど、マネージャーは仕事が多い。サポートする項目も増えていくものだと言っていた。

歩の所属するテニス部にはマネージャーはいない。弱くはないが、ちらほら強いメンバーがいるくらいで、団体で見た時はさほど強豪でもない。歩の高校はあくまで進学校という色が強かった。

先輩たちのラリーを見ながら、つい片岡の姿を目で追ってしまう。余所見をしているとボールを取り溢してしまうなと思い直し、先輩たちのラリーへ意識を集中させた。

 




 


 


陽が暮れてきて両校とも撤収をし始めると、片岡の方から声を掛けてきた。

「大丈夫?」

第一声がそれって、自分はどれだけ彼を心配させているんだろうと、今までの言動を振り返って反省する。

「飯食べた後、一時間くらい時間あるけど、そっちは?」

「うちもそんな感じ。」

「少し、話そう。何かあるんだろ?」

顔に出ているのだろうか。自分で顔に出している自覚がないから心配になる。

「コートでちらちら視線感じたからさ。それとも、惚れてただけ?」

揶揄うような口調で言われ、自分でも気持ちがよくわからないまま赤面する。視界に片岡の姿を入れていたことが筒抜けであったことが、どうにも居た堪れない。

「じゃあ、また後で。時間空いたらメールするよ。」

去り際に片岡の手が歩の手に触れる。微かに触れただけだったが、通り過ぎた温もりに少しだけ体温が上がる。

欲しい時に欲しい言葉をくれる。そして温もりを分けてくれる。その優しさに気恥ずかしさを覚えつつも、急速に絆されていく自分を感じる。

もっと近付いて、もっと触れてみたい。

身体から湧き上がってくる未知の感覚が少し怖い。けれど好奇心の方が遥かに勝ってもいた。

歩は部活仲間と慌てて合流しながら、片岡へ傾倒していく自分を確かに感じた。










 








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