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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り19

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隣り19

目の前にドリンクが運ばれてきて店員が去った瞬間、もうそれ以上耐える事ができなかった。

俯いて溢れ始めた涙に、片岡はすぐに抱き締めてくれた。温かさが身に沁みて、涙が止まらなくなって嗚咽も上がる。

会って早々こんな状態で、片岡も聞きたい事があっただろうけれど、彼は黙って抱き締めてくれるだけだった。

甘えて縋るのをやめられない。きっと間違っている。こんな風に彼を呼び出して、感情を晒して慰めるだけの役目を負わせるなんて。

「ッ・・・こんな、賢介に頼るの・・・間違って、る・・・」

「間違ってないよ。俺は迷惑だなんて思ってない。甘える約束だろ?」

「でもッ・・・」

悟史の気持ちがこちらに向かない事は、昨夜彼の目を見て確信している。片岡に駄目出しをされなくとも、もう嫌というほどわかりきっているのだ。

自分の気持ちが、自分で受け止めきれない。嫌いになんてなれない。でも好きなままでは苦しい。駄目な事はわかっていても、それでもやっぱり振り向いてほしいと心の奥底で期待し、願っていた馬鹿な自分に気付いてしまう。

心がバラバラに砕けて、修復不可能なほど粉々になっていきそうだった。片岡にあやされながら、何一つ言葉にならない。悲しくて、苦しくて、叫べないほど辛い。

嗚咽を上げ続けるだけの自分に、片岡は気の済むまで付き合ってくれた。

一通り泣き尽くした後、ドリンクバーの氷をハンカチに包んで、片岡が甲斐甲斐しく腫れた瞼を冷やしてくれる。こんな自分といて、面倒だと零さない片岡が不思議だった。

「歩、少し休もう。」

何を休むのかよくわからなくて首を傾げる。

「恋は休憩。歩が傷付かないでいられることをしよう。」

優しい言葉につい頷きかけて、結局首を横へ振った。

「そんなの、逃げてるだけだよ。」

「逃げていい。立ち向かってばかりいたら、疲れて何も楽しくなくなる。」

自分を好きだと言った片岡に、こんな事を言わせてしまうほど、自分は憔悴して見えるのだろうか。

「逃げて・・・いい?」

けれど許されるなら逃げたかった。縋るように片岡に問うと、宥めるように頷いてくれた。

「逃げていいんだよ。休もう。」

片岡の言葉を噛み締めるように、歩は頷き返す。再びじわりと浮かんでしまった涙は、流れ出てしまうほどの大きな雫にはならなかった。

「歩。歩は今日家に帰ったら、何がしたい?」

唐突な質問に内心首を傾げたが、すぐにさっきの傷付かないことをする、という彼の言葉を思い出した。

「夕飯・・・中華料理にしたいな。エビチリとか。」

「歩が作るの?」

「うん。親帰ってくるの、遅いから。」

片岡が嬉しそうに微笑んで、ささやかな要求をしてくる。

「今度ご馳走して。」

「うち、来る?」

「お邪魔させて。でも親には言っておけよ、ちゃんと。勝手に出入りするのは気が引ける。」

「うん。夏休みになったら来て。」

「わかった。じゃあ、約束な。」

小指を寄越すように促してくるので、歩はつい笑みを溢す。片岡は指切りが好きなんだろうか。前も二人で指切りをして約束をしたな、と思い出す。

「賢介」

「うん?」

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

片岡の優しさに甘えて良いだろうか。許されるならそうしたい。恋に振り回されてばかりいると、自分が自分でなくなっていく。自分をかたどっていく他のものに、ちゃんと目を向けよう。
歩は片岡と指切りをしながら、そう自分に誓った。















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