どうしても会いたいと歩が連絡をした事に思うところがあったのだろう。片岡は歩が通う高校まで迎えにきてくれた。彼の顧問が勉強会に出席する関係で、部活動がたまたま休みだったらしい。
片岡に会ったら張っていた虚勢が剥がれていく。公衆の面前で泣きそうになって慌てて俯いた。
「歩、行こう。ついてきて。」
片岡が手短に話してさっさと歩き出す。ここで問い詰められていたら泣いていた。だから素っ気なさを取り繕ってくれたのはむしろ有難かった。
夕方でもまだ周囲は明るい。夏に向かって陽が長くなっているからだ。こんな明るい外で泣きだすわけにはいかない。知り合いも大勢いるというのに。
「倉橋くん! じゃあねー!!」
「あ、うん。また明日。」
クラスメイトで集っている女の子たちのグループが代わる代わる声を掛けてくる。
「歩、人気者だね。」
完全に揶揄い口調で言ってくる片岡に少しムッとして顔を背ける。人見知りが激しいから、未だに女の子たちとはどう付き合っていけば良いのかわからない。
「ヤダな、ライバル多くて。」
「なにそれ・・・」
「女の子に全く興味ない?」
「ない・・・かな・・・」
悟史を好きになる女の子たちに嫉妬はしたことがあるが、それ以外の事で女の子について深く考えた事もない。
「まぁ、そうだろうね。」
「何が?」
「歩は俺と同じ、っていう話。女に興味が持てない人種。」
「そう・・・なのかな?」
「気にし過ぎても仕方ない事だけど、自覚はしておいた方が覚悟はできるよ。」
確かに興味を持った事はないかもしれない。同級生たちがよく回し読みをしているアダルト雑誌も、自分にとっては特別刺激にはならなかった。見せられた事が何度かあるが、目のやり場に困ってしまい、気まずいだけなのだ。
「歩はね、可愛い女の子が目の前を通っても、全く触手が動いてない。試合の時もよく囲まれてるけど、嬉しそうじゃないし。俺たちくらいの歳で囲まれたら、目の前にいる子に興味がなくたって、気分は上がるもんだよ。人並みに女の子に興味があるならね。」
そういう意味で言うなら悟史もそうだろうと思っているところで、片岡が見透かしたように釘を刺した。
「あいつは女の子のこと目で追ってるよ。素朴そうな子が好きみたい。」
俯いていた顔を上げて、目で片岡に問い掛ける。誰かに、これは片岡の意地の悪い嘘だと言って欲しかった。
「この前の試合でさ、コートを囲んでる子の中で一人そういう雰囲気の子がいたんだけど、何となくつい惹かれてって感じで目で追い掛けてた。別に付き合いたいとかそういうのではないんだろうけど。」
知らなかった。いつも悟史の事を意識しているつもりだったのに、そんな悟史を見た事がなかった。あるいは見たくなくて、無意識にそういう彼を排除していただけかもしれない。
「最初、歩とあいつがあまりに仲良さそうだから付き合ってると思った、って前に話しただろ?」
「うん・・・」
「でも二人のことよく見てたら、違った。あいつに恋愛感情はないよ。意地悪で歩とあいつのこと、無理やり引き離そうとしてるわけじゃない。歩も嫌になるくらい、わかってる事なんじゃないの?」
「・・・うん。」
「やめとけ。」
「・・・。」
「これ以上好きになったら、歩は苦しむ。」
言われるまでもなく、わかってる。ちゃんと本当の意味でわかっていると思う。けれど悟史だけに向けてきた眼差しを、どう方向転換すれば良いのかがわからないのだ。
「賢介・・・」
「うん?」
「二人きりになりたい。」
「悪かった。外で話すような話じゃないよな・・・またそこのカラオケでいいか?」
泣きそうな顔で頷いて、行き交う人に見えないように彼のシャツをこっそり掴む。片岡はすぐに気付いて、歩の手をそって握ってくれた。
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朝霧とおる