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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り17

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隣り17

失恋をして、まだ気持ちを傾けきれていない相手に縋り付くのは、たぶん間違っている。けれど自分の胸があげる悲鳴をわかってほしくて、包み込んでほしくて、すぐに片岡と会う約束をしてしまった。

散々泣いた翌朝、腫れた目をなんとか保冷剤で冷やして出掛ける。学校のトイレの鏡で顔を確かめてみたけれど、幾分惨めな面構えをしているだけで、泣いた跡はちゃんと消えていた。

初夏の暑さで熱せられた水道水は生温かったけれど、顔を水に触れさせていくことで、気持ちが落ち着いてくる。教室で座席に着く頃には、いつもの体裁を取り繕える精神状態まで戻った。

今日はやらなければならない事を、淡々とこなせばいい。一つひとつに集中して、悟史の事を意識の全てから排除する。

片岡に会うまでは我慢し通す。彼に会えるまで、あと半日。先の見える時間が歩の心を冷静にさせてくれた。

「倉橋。これ、先輩から。」

「あ、夏の練習メニューか。合宿の日程ってこれからだよね?」

「ああ。どっかの学校と合同みたいだから、練習試合も組むらしいよ。」

「へぇ、合同なんだ。」

「恒例なんだってさ。」

同じテニス部のクラスメイトがくれた情報が確かなものなら、片岡と同じになる事も有り得るのかなと思い至る。少しばかり気持ちが逸って期待してしまう。

もう振り返るべきじゃない。好きな気持ちは過去に置いて、思い出にしなければいけない。そんな事がチラリと頭を過ぎって、昨夜崩壊した涙腺が再び緩みかける。こんなところで泣くわけにはいかないと力んで、なんとか涙を堪えた。

落ちては浮上して、またどん底に落ちる事の繰り返し。感情の起伏が激し過ぎて疲れてしまう。部活が終わるまでこの心が持ち堪えてくれるか不安だった。

無意識に目を向けた窓の向こう側に、想い人を見つけてしまう。次がどうやら体育の授業らしい。

鍛えられた身体で、クラスメイトとサッカーボールを追いかけている。彼のクラスメイトが悟史に身体をぶつけに行って、逆に跳ね返されていた。

小さい頃は歩も一緒にボールを追いかけた。けれど身体を跳ね返される事はあまりなかったなと思う。今思うと変な話だ。俊敏だったとはいえ、子どもの頃の一歳違いは大きい。ましてや身体の大きかった彼に跳ね返される事がなかったなんて。

悟史は昔から歩には優しかった。怪我をしないように、いつも側で見守ってくれて、彼自身の性格もあるとは思うけれど、乱暴をされたことがない。

歩が彼からボールを奪える事は多かった。彼はきっと、優しさで譲って褒めてくれていただけだったのだ。

弟だった。悟史にとって自分は守るべき存在で、対等じゃなかった。子どもの頃から染み付いたその関係は今もこの先も、きっと変わらない。

悟史が昨日迎えに来てくれたのも、歩が純粋に心配だから。何の裏もない。ただ歩が危ない目に遭わないか心配だから迎えに来た。

グラウンドで駆ける悟史の姿を目に焼き付ける。この恋は叶わない。そして彼が歩の想いを知る事もないだろう。

この気持ちに区切りをつける時が来たのだ。悟史と永遠に幼馴染でいよう。歩は彼の背中を目で追い掛けながら、そう決めた。









 








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