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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

隣り11

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隣り11

会いたくなったら会う。自分にとって都合の良過ぎる関係はかえって落ち着かないものだと知った。

自分が会いたくなったら片岡を呼ぶように、片岡も会いたい時には自分を呼び出す事を約束させて、中途半端な関係にカタチだけでも終止符を打った。

誰かとデートしている自分を想像したことなどなくて、はっきりとした目的もなく片岡と会っているのが未だに不思議で仕方がない。けれど思った以上にこの状況が楽しかった。多分新しい世界に飛び込めた事が、心の重荷を解いたのだと思う。

今までの友人と片岡が違う点は、何も隠す必要がないことだった。悟史を好きな自分を否定しなくていい。ただその事実を受け止めてくれるから、素のままの自分でいられる。その事がただ嬉しかった。

「でも、何で俺?」

「好きになるのに、理由なんてある?」

「・・・そう、だね。」

確かに片岡の言う通りだ。悟史を好きな理由なんてわからない。むしろ教えて欲しいくらいだった。理由が付けられるくらいなら、たぶん諦める事も簡単だった。わからないから辛い。好きな気持ちがいつまで経っても消えない。

「ところで、歩。」

「うん?」

「俺の名前言ってみて。」

「え? 片岡・・・」

途中まで言い掛けて止まる。そういえば忘れたきり思い出してもいなかったし、聞いてもいなかった。今更過ぎて冷や汗が出る。

「けんすけ」

「けんすけ・・・」

「賢者の賢に、すけは介入の介。」

「自分で賢者とか言うんだ。」

思わず吹き出したら軽く小突かれる。

「付き合ってくれるなら、今度から名前で呼んで。」

「ッ・・・」

「歩ってさ、初心だよね。そういう可愛いところも好き。」

前も似た様な事を片岡に言われた。男の自分に可愛いというのは褒め言葉なんだろうか。悟史の事も片岡の事も、それぞれ好意を持っていても可愛いと思った事は一度もない。

首を傾げて訝しむ。すると片岡が面白いものを見るように笑った。

二人で市内にある大きな図書館へ来ていた。軽食も取れるようなカフェと、子どもが室内で遊べる遊具を備えたスペースなども併設されていて、片岡曰く、バブル時代の産物らしい。図書館としてのスペースも広大で、書庫も同じように広いため、書籍の所蔵も膨大だ。

デートと言えば、映画館や遊園地なんていう定番もあったけれど、人目を気にしてしまう歩のことを思って、片岡は避けてくれた。一緒にいて気疲れするのでは意味がない。興味のあるものは互いに違うけれど、ここなら概ね網羅している。

片岡はテニス部のマネージャーをしていることもあってか、スポーツ工学に興味があるらしい。大学もその方面を目指していているという。

歩は建築物の写真や絵画の画集を眺めているのが好きだった。しかしそういうものは高額で学生の身分では手が出しにくい。

そこで片岡がぴったりな場所があるといって、連れ出してくれたのがこの図書館だった。

二人で思い思いの蔵書を引っ張り出してきては読み耽る。静かな館内ではお喋りもほとんど聴こえてこない。

好きな事を純粋に楽しめるのは久しぶりだった。そう思うと、自分が最近どれだけ悟史に振り回されていたかがわかる。やりたい事に没頭することもできていなかったのだ。

建築物の写真集をめくっていると、気に入った作品を見つけた。持ってきたスケッチブックを取り出して形を取っていく。

「上手だね。」

頭上から片岡の小さい声が上がる。さっきまで席を離れていた片岡がいつの間にか隣りへ戻ってきていて、歩が鉛筆を滑らせているスケッチブックを覗き込んでいた。

「練習?」

「うん。それと、これを元にして模型を作るんだ。」

「そうなんだ。なんか、凄い。できたら見せて?」

「うん。」

時間はあっという間に過ぎた。少し後ろ髪を引かれながら二人で図書館から帰路へ着く。方向が別々なので、駅の改札口で手を振って別れた。

好きな事に集中することの楽しさを思い出させてくれた片岡。恋で頭がいっぱいで身動きが取れなかった時より、何倍も充実した時間を過ごせた気がする。

悟史の事は、やっぱり好きだと思う自分がいる。けれど今の自分にとって悟史を想い続ける事は重荷にしかならないのかもしれない。そんな事を考えながら駅から家までの道を歩いた。








 








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