皆の前で告白され、困った顔をする歩の姿が目に浮かぶ。
歩の大丈夫は信用できない。目測を見誤る歩に翻弄されたのは過去の話でも、賢介の心にはまだ不安の種が根深く残っている。
彼はフった相手だと言うけれど、現にこうやって街で出くわしてデートを申し込まれているあたり、本当にきっぱり断ったのか疑わしい。
根が優しいから、当たり障りなく言ってかわしたのではないだろうか。
上手く逃げたつもりでも、そう思っているのは本人だけ、という可能性がある。
歩が女の子に興味がないのはわかっている。盗られる心配をしているわけじゃない。単に自分の恋人に手を出されたのが気に入らないだけ。それを歩にあれこれ理由をつけて当たっている。歩が悪いわけじゃない。それはわかっている。
しかしもう少し警戒心を持ってほしい。器用ではないのに何でも受け身だから、隙が生まれるのだ。
「賢介、怒ってる?」
「怒ってるわけじゃないよ。」
怒っていはいない。それは本当。
「賢介、ごめん・・・もう、隠し事しないから・・・」
そう言って項垂れる歩に、今まで何度も白旗を上げてきた。
「お願い・・・怒らないで・・・」
結局自分も中途半端なのだ。思っているまま全てを吐露してしまったら、歩はその独占欲に戸惑うだろう。わかっているから追い詰め方は緩くなる。
まだ賢介自身も自分の独占欲と上手く向き合えていないのだ。
「歩、俺もごめん・・・」
自分が笑って気にも留めなければ、今日は二人で楽しい休日を過ごせたはずだった。その意味も込めて、早々に賢介の方も折れる。
「・・・もう、怒ってない?」
「うん・・・」
最初から怒っているわけではない。気持ちの整理がつかなくてモヤモヤしているだけだ。けれど心配そうに見上げてくる瞳に負けて頷いた。
心底ホッとした顔で歩が擦り寄ってくる。こういう現金なところも好き。まずい事をしてしまったと顔に出てしまうところも、争い事が嫌いですぐに根を上げてくるところも。
一緒に暮らし始めて、好きな気持ちは毎日降り積もっていく。人を好きになる気持ちに際限はないのだ、と思ってみたり。
「歩、隠し事しないでね?」
自分も大概しつこい。耳にタコができるほど同じ事を聞かされているはずの歩は、真剣に頷き返してくる。兎に角、今の歩は賢介の機嫌を損ねたくなくて必死。その単純明快な思考回路が可愛くて堪らない。
先に惚れたのも、好きの気持ちが大きいのも自分。その思いに囚われて抜け出せないのは、自分の狭量さの所為だ。
もう少し器の大きい人間になりたい。
仲直りのキスをしながら、自分の独占欲を苦々しく思った。
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朝霧とおる