浮気する気なんて全くないし信頼してほしいのに、片岡は心配症だ。話がややこしくなっても困る。だから黙っていたのに、今のこの状況はなんなの。運が悪いというかなんというか。それとも間が悪かったのかな。
「告白されたこと、なんで黙ってたの。」
どうせフってしまった相手だ。何故言わなきゃいけないのかよくわからない。
「黙ってたっていうか・・・。だって、フったし・・・。」
「・・・。」
今日は久々に博物館へ行こうと約束をして楽しみにしていた一日だった。二人で和気あいあいとランチをしているはずだった。
けれど出掛けた先で、大学で告白してきた後輩の女の子と遭遇。ダブルデートを提案された挙句、連れの女の子が公開プレゼンでの告白事件を喋ってしまったのだ。
女の子って口が軽い。別に全ての女の子が嫌いなわけではないけれど、ちょっと恨んでしまう。
片岡はやきもちを焼き始めると大変なのに。
爽やかに二人の女の子の誘いを断った後は、ずっとむくれてる。どうしてくれるの。せっかく楽しい休日だったのに、これでは台無しだ。
負のオーラを撒き散らしている恋人。彼の空気がこちらまで伝染してきて、歩もがっくりと肩を落とす。
告白された日はそれなりにダメージを受けた。公開プレゼンだから、その場にいたのは教授や同級生だけではない。同じ学科の学生をはじめ、他学科の先輩や後輩、外部の人までいたのだ。
皆の前で断るのは憚られて一旦保留にしたら、余計に騒がれてしまった。世話になっている先輩の三島にも目撃されて指摘される始末。自分が悪かったのかとちょっと落ち込んだ。
ようやくメンタルが復活して落ち着いたと思っていたのに、この仕打ちはなんだろう。理不尽な気がして納得がいかない。
「俺が悪い?」
「悪くはないけど・・・隠し事されたのがショック。」
二人で向かい合って、パスタをクルクルとフォークに巻き付ける。なかなか口に運ばないのは片岡も歩も同じだった。
険しい顔でランチをしていたって、ちっとも美味しくない。
自暴自棄な気分で無理やり口へ食べ物を送り込む。機械的に咀嚼していくだけの行為が虚しい。
どっちも悪くないと思う。タイミングが悪かった。ただそれだけだ。
こういう時は二人きりになって、ちゃんと気持ちを吐き出す事が大事だ。この三年間で何度も繰り返してきたことだから。
片岡は大抵の事には寛容だけれど、隠し事をすると機嫌が悪くなる。喧嘩したくなかったら、どんな些細な事でも言っておくべきだと過去にも学習してきたのに、言わなかったのは自分だ。
だから今回は自分が下手に出て謝るべきなんだろうけど、少し芽を出しているプライドが邪魔をする。
「賢介。食べたら帰ろう?」
「・・・そう、だね。」
楽しみにしていた工程を辿れないのは残念だが、仲直りする方が先だ。一緒に暮らしているから、喧嘩したままだと辛い。それに根を上げて泣きをみるのは自分の方だ。
外だと堂々と話せる内容でもないし、片岡と恋人だとバレるのは正直得策ではない。
早く家路につきたい一心で、パスタを口の中へ放り込んだ。
いつも閲覧いただきまして、ありがとうございます。
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる